月例経済報告(H30.12.20) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商 問題の動向が世界経済に与える影響や、海外経済の不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。 |
2018年の日本経済のポイント
○ 景気の回復基調は継続し、戦後最長の回復期間に並んだ可能性がある。
・2018年の日本経済は、夏に相次いだ自然災害によって一時的に成長が鈍化したものの、
基調としては緩やかな回復を続けた。
2012年12月に始まった今回の景気回復期間は、今月で73か月となり、2002年〜2008年
に記録した戦後最長期間に並んだ可能性がある。
今回の景気回復では、2000年代の戦後最長期と比べ、雇用所得環境が大幅に改善し、内需
主導の成長となる中で、インバウンドの増加などもあって、地域ごとの景況感のばらつきが小さい
ことが特徴である。
○ 日本経済の最大の課題は潜在成長率の一層の引上げである。
・今回の景気回復期において、潜在成長率は長期的な低下傾向から上昇に転じた。女性や高齢者
の労働参加の拡大、企業の投資意欲の回復から、労働と資本の成長寄与がプラスに転じている。
過去の長期回復期間をみると、1960年代はカラーテレビや乗用車、クーラーの3C、2000年代
はインターネットなどIT革命が長期回復を後押した。今回の景気回復では、スマホ、eコマースの
急速な普及に代表される第4次産業革命の技術革新が新商品・サービスを生み出しており、
Society5.0(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題
の解決を両立する新たな未来社会)に向けた更なる取組が重要といえる。
○ 実質総雇用者所得は増加が続き、冬のボーナスも過去最高水準となった。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直している。
・消費総合指数は、前月比で、7月▲0.1%、8月+0.0%、9月▲0.1%、10月+0.1%。
・自動車販売額・旅行取扱額が持ち直しに寄与した。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、7月▲0.2%、8月▲0.2%、9月+0.1%、10月▲0.4%、
11月▲0.1%。
・10月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.5%。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設は、おおむね横ばいとなった。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、7月▲1.2%、8月▲1.4%、9月+1.0%、10月▲0.3%。
・持家着工数は前月比で、7月+3.8%、8月▲2.1%、9月+0.8%、10月+1.1%。
・貸家着工数は前月比で、7月+2.0%、8月+0.9%、9月▲0.3%、▲2.3%。
・分譲着工数は前月比で、7月+14.4%、8月▲3.5%、9月+4.2%、10月+0.6%
○ 公共投資は、このところ弱含みとなっている。
・請負金額は前年同月比で、7月▲2.4%(出来高▲0.5%)、8月+1.3%(出来高▲1.4%)、
9月+1.6%(出来高▲0.1%)、10月+8.6%(出来高▲1.4%)、11月▲11.4%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用情勢が着実に改善する一方、人手不足感が高い水準となっている。
・有効求人倍率は、6月1.62、7月1.63、8月1.63、9月1.64、10月1.62
(正社員は1.13)となった。
・完全失業率は、6月2.4%、7月2.5%、8月2.4%、9月2.3%、10月2.4%となった。
物価の動向
○ 消費者物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。(10月総合前月比+0.1%)。
○ 消費者物価上昇率(消費税抜き)は、10月総合前年比+1.3%。
投資・収益・業況
○ 業況は、おおむね横ばいとなった。
・業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2018年3月+24、6月+21、9月+19、12月+19、2019年3月+15。
「大企業・非製造業」は、2018年3月+23、6月+24、9月+22、12月+24、2019年3月+20。
「中小企業・製造業」は、2018年3月+15、6月+14、9月+14、12月+14、2019年3月+8。
「中小企業・非製造業」は、2018年3月+10、6月+8、9月+10、12月+11、2019年3月+5。
○ 企業収益は、改善している。
○ 設備投資は増加しており、2018年度の設備投資計画も上方修正された。
・7-9月期は反動減となったが、基調としては増加している。
○ 2018年度設備投資計画では、全産業で+9.6%に上方修正された。
・自動車(前年度比+7.2%)……電気自動車を含む新型車向け生産能力の増強投資や研究開発
関連施設投資などが背景となった。
・化学(前年度比+12.4%)……電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池材料の増産に対応
する投資などが背景となった。
・生産用機械(前年度比+21.1%)……堅調な設備投資需要に対応するための生産能力増強投資
などが背景となった。
・運輸/郵便(前年度比+16.8%)……鉄道高速化や駅の再開発、安全対策投資などが背景となった。
・宿泊/飲食(前年度比+15.9%)……インバウンド需要等を背景とした大都市圏及び地方観光地
での宿泊・飲食施設の建設などが背景となった。
生産
○ 生産は緩やかに増加しており、輸送機械は自然災害から回復した。生産用機械や電子部品等は
伸びが鈍化した。
・鉱工業生産指数は前月比で、9月▲0.4%、10月+2.9%、11月▲0.6%(予測)、12月(予測)+2.2%
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、7月▲2.1%、8月+5.4%、9月+0.8%、10月▲3.1%。
・電子部品・デバイスは前月比で、7月+1.8%、▲9.0%、9月▲1.2%、10月+8.7%。
・輸送機械は前月比で、7月▲4.2%、8月+4.6%、9月1.7%、10月+4.6%。
外需
○ 輸出はおおむね横ばいとなった。
○ 輸入はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。
○ 貿易・サービス収支の赤字は、このところ増加している。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2カ月連続で上昇した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、7月▲1.5、8月+2.1、9月▲0.1、10月+0.9、11月+1.5。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3カ月ぶりに上昇した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、7月▲1.0、8月+2.4、9月▲0.1、10月▲0.7、11月+1.6。
アジア経済の動向
○ 中国では、政府の構造調整の取り組みの影響もあり、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられ、
民間債務削減による影響や、今後の貿易動向に注意が必要である。
・7-9月期の実質GDP成長率は6.5%と、4-6月期から0.2%低下した。
・輸出は堅調に増加している。
・乗用車販売台数は、伸びが低下した。
・固定資産投資は、伸びが下げ止まりとなった。
・消費者物価上昇率は、おおむね横ばいとなっている。
〇 韓国・タイでは、景気は緩やかに回復しているが、一部に弱い動きもみられる。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
・ 韓国・台湾では、製造業の景況感が悪化している。
〇 インドでは、景気は回復している。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は着実に回復が続いているものの、中国向け輸出が大幅に減少した。今後の
金融政策や貿易の動向に注意が必要である。
・2018年7-9月期のGDP成長率(2次推計値)は、前期比年率+3.5%。
〇 雇用者数は増加しており、失業率は低下傾向にある。
・11月の失業率は、3.7%となった。
〇 コア物価上昇率は、安定している。
○ 住宅ローン金利の上昇等を背景に、住宅着工件数は、おおむね横ばいとなった。
○ 製造業の景況指数は堅調に推移している。
○ 輸出はこのところ弱い動きとなっている一方、輸入は高い伸びとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は緩やかに回復している。
ドイツでは、景気は緩やかに回復している。
イギリスは、景気回復は緩やかになっている。
・2018年7-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で、+0.6%
(イギリスは+2.5%、ドイツは▲0.8%)。
・総じてみれば景気は緩やかに回復しているものの、一部の国の高失業や英国のEU離脱の
動向に留意しなければならない。
○ 個人消費は、ユーロ圏・イギリスともに、緩やかながら増加した。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏はおおむね横ばい、イギリスはこのところ安定している。
・10月の消費者物価上昇率(コア)は前年比で、ユーロ圏1.1%、イギリス1.9%。
○ 輸出は、ユーロ圏ではこのところおおむね横ばい、イギリスでもおおむね横ばいとなった。
◎ 英国のEU離脱の経緯と今後の予定
2016年
6月23日 EU残留・離脱を問う国民投票
2017年
3月29日 英国政府がEU側に正式に離脱通知
2018年
7月 6日 英国政府がEU離脱後の将来関係の枠組みに関する交渉指針を公表
10月17-18日 EU首脳会議(進展なし)
11月14日 英国政府が臨時閣議で離脱協定案及び将来関係に関する政治宣言骨子案を承認
11月25日 臨時EU首脳会議において、EU27か国が離脱協定及び将来関係に関する政治宣言を承認
12月4日 英国議会における承認手続き開始
5日 メイ首相が離脱協定に関する法務長官の法的助言の全文を公表
10日 メイ首相が英国議会における離脱協定案の採決延期を決定
欧州司法裁判所が、英国が他の加盟国の同意を得ずに、一方的にEU離脱通知を撤回可能である旨判示
12日 与党・保守党がメイ首相への不信任投票実施、否決
13-14日 EU首脳会議
(EU27か国が、英国との再交渉を否定、北アイルランド国境管理問題の安全策が一時的措置であることを合意)
2019年
1月以降 英国議会での採決・国内法制化手続き
欧州議会での承認手続き
3月29日 英国EU離脱
30日以降 (離脱協定を批准した場合に限り)移行期間開始
2020年
12月31日 移行期間終了(1年間又は2年間延長の可能性あり)