月例経済報告(R5.7.26) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な 金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しする リスクとなっている。また、物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に 十分注意する必要がある。
|
世界経済
○ 世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。
・中国は、高齢化の進展・従属人口比率の上昇につれて成長が鈍化している。
インドでは、高齢化の進展は緩やかなものにとどまり、成長制約は相対的に小さい可能性がある。
・インドの市場規模・成長性への期待から、日系企業の関心も高まっている。
・中国は貿易収支が黒字となっている。一方インドはサービス収支が黒字であり、サービス輸出に強みがある。
日本の実質GDP成長率
○ 2023年1-3月期(2次速報)の実質GDP成長率は、前期比+0.7%(年率+2.7%)となった。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直している。
・新車販売は、生産面の供給制約緩和に伴って増加している。外食消費は、コロナ禍以前のトレンドまでほぼ回復した。
・夏休みの国内旅行者数も、コロナ禍以前の水準を回復する見込みとなっている。4年ぶりに通常開催される夏祭りや
イベントも多く、消費の後押しに期待がもてる。
・コロナ禍の活動制限下で積み上がった超過貯蓄は、米国では21年半ば以降に取崩しが進む一方、日本では依然取崩し
には至らず高止まりとなっている。今後、経済活動の正常化が進む中、貯蓄から消費へも動き出すことが期待される。
・実質総消費動向指数は、前期比で、3月▲0.1%、4月▲0.1%、5月▲0.1%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、2月+0.0%、3月+2.6%、4月+1.5%、5月+0.6%、6月+0.2%。
・5月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.2%となった。
物価
○ 国内企業物価は、このところ緩やかに下落している。
消費者物価は、上昇している。
・今次の物価上昇局面では、リーマンショック直前の原油価格高騰時と比べ、企業の価格転嫁が進展した。
・財の消費者物価は、輸入物価から半年程度遅れて動く傾向があり、今後は上昇率が縮小する見込みとなっている。
必需品の物価は、激変緩和措置の効果等も相まって上昇率が縮小した。一方、必需品以外は徐々に上昇率が拡大している。
・こうした中、物価上昇に直面する消費者は、食料品について、低価格商品にシフトしたり、購買品目を変えたりしている
可能性がある。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設は、底堅い動きとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、2月▲3.8%、3月+2.0%、4月▲12.1%、5月+11.8%。
・持家着工数は前月比で、2月+3.6%、3月▲8.0%、4月▲0.8%、5月+0.1%。
・貸家着工数は前月比で、2月+1.0%、3月+9.8%、4月▲12.9%、5月11.3%。
・分譲着工数は前月比で、2月▲15.1%、3月+0.1%、4月▲19.8%、5月+23.7%。
○ 公共投資は、堅調に推移している。
・請負金額は前月比で、2月+51.7%(出来高+0.3%)、3月▲22.8%(出来高+2.9%)、4月▲4.1%(出来高+2.8%)、5月+3.0%、
6月+5.1%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用情勢は、このところ改善の動きがみられる。
・5月のフルタイム労働者の定期給与は、賃上げの反映が進んだことで一段と上昇した。
比較可能な1993年以降で過去最高水準の伸びとなっている。春闘の結果は、今後も賃金に反映される見込みである。 ・今夏のボーナスは高水準であった昨年から更に上昇した。パート募集時の平均時給も1,000円超となるなど、増加傾向が
継続している。これらにより、雇用・所得環境の改善が続くことが期待される。 ・価格転嫁ができている企業は、賃上げにもより積極的な傾向がある。賃上げの原資の確保という観点からも、適切な価格
転嫁に向けた取組が引き続き重要となる。 ・有効求人倍率は、1月1.35、2月1.34、3月1.32、4月1.32、5月1.31(正社員は1.03)となった。
・完全失業率は、1月2.4%、2月2.6%、3月2.8%、4月2.6%、5月2.6%。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
○ 設備投資は、持ち直している。
・23年度の設備投資は、高い伸びが実現した22年度から、さらに2桁増の計画となっている。大企業のみならず、中小企業でも
投資マインドに力強さがある。DXやEV化などの前向きな動きもみられる。
・ソフトウェア投資は、引き続き高い伸びとなっている。非製造業では、22年度に大幅増となった宿泊・飲食を含め、23年度は
全ての業種でプラスの計画となっている。一方、米国に比べると、我が国ではソフトウェアを含む知的財産投資のシェアが
低く、更なる投資拡大が課題である。
○ 業況判断は、持ち直している。
・ 大企業の製造業の業況判断では7期ぶりに前期から上昇した。
・ 製造業では、供給制約が緩和した自動車産業のほか、飲食需要の増加や価格転嫁の進展も背景に食料品産業が上昇した。
非製造業では、新型コロナの5類移行も背景に幅広い業種で前期から上昇した。
・ 街角景気の先行き判断をみると、インバウンドや旅行関係に言及した景気ウォッチャーの景況感は引き続き全体を押し上げ
ている。値上げに関する言及は全体を押し下げているが、その程度は縮小した。
・ 倒産件数は、増加がみられる。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2022年9月+8、12月+7、2023年3月+1、6月+5、9月+9。
「大企業・非製造業」は、2022年9月+14、12月+19、2023年3月+20、6月+23、9月+20。
「中小企業・製造業」は、2022年9月▲4、12月▲2、2023年3月▲6、6月▲5、9月▲1。
「中小企業・非製造業」は、2022年9月+2、12月+6、2023年3月+8、6月+11、9月+7。
○ 生産は、持ち直しの兆しがみられる。
・製造業の生産は持ち直しの兆しがみられる。供給制約の緩和等を背景に、乗用車や建設機械等が増産基調となるほか、
市況の悪化による弱さが続いてきた半導体関連業種も横ばいとなった。
・建設機械では遠隔操作システム搭載機の販売が予定され、半導体製造装置は今年度を底に来年度以降売上増が見込まれる
など、生産用機械工業では先行きにも期待感がみられる。
・インバウンド消費は、コロナ禍前の水準までほぼ回復した。中国等の客数回復は道半ばだが、一人当たり消費額が大きく
プラスに寄与した。
・鉱工業生産指数は前月比で、3月+0.3%、4月+0.7%、5月▲2.2%、6月(予測)+5.6%、7月(予測)▲0.6%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、2月+8.9%、3月+5.8%、4月▲6.3%、5月+3.6%。
・電子部品・デバイスは前月比で、2月+7.1%、3月▲10.6%、4月+6.9%、5月0.0%。
・輸送機械は前月比で、2月+13.9%、3月+4.9%、4月+3.5%、5月▲4.0%。
外需
○ 輸出は底堅い動きとなっている。輸入はおおむね横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、5か月ぶりに下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、2月+3.5、3月+1.3、4月+1.3、5月+0.4、6月▲1.4。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、2月+1.5、3月+3.3、4月+1.6、5月▲1.3、6月▲1.6。
アジア経済の動向
○ 中国では、景気は持ち直しの動きがみられる。
先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが期待される。ただし、不動産市場の動向等を注視する
必要がある。
・23年4-6月期の実質GDP成長率は前期比で2.2%(前年比+6.3%)となった。、前年4-5月に上海ロックダウンの影響が
あった点に留意しなければならない。
・不動産企業の債務問題が長期化する中、住宅市場は供給過剰と需要不足(投機の減少、買い控え、都市化の減速等)が
顕在化した。販売面積は減少が続き、住宅価格は地方で下落。住宅関連財の小売も低調となっている。
・若年失業率は過去最高水準で推移している。これに加え、過去の一人っ子政策の影響もあり、若年層の男女比に偏りが
みられる。婚姻率・出生率の低下を通じて今後の中国の人口構造にも影響があるとみられる。
・消費はこのところ持ち直している。
・生産は、持ち直しの動きがみられる。
・輸出はこのところ弱含みとなっている。
・固定資産投資はこのところ伸びが低下している。
・都市部調査失業率はおおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。
○ 韓国では、持ち直しの兆しがみられる。
○ 台湾では、景気は下げ止まりの兆しがみられる。
○ インド・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気はこのところ持ち直している。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は緩やかに回復している。 先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、金融
引締めに伴う影響等による下振れリスクに留意する必要がある。
・2023年1-3月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+2.0%。
○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・6月の失業率は3.6%となった。
○ 設備投資は緩やかに持ち直している。
○ 消費は緩やかに増加しており、自動車販売台数は持ち直している。
○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格は緩やかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。
○ 財輸出はおおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気はこのところ足踏み状態にある。
・23年1-3月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で0.0% (イギリスは+0.6%、ドイツは▲1.3%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっており、イギリスは弱含んでいる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともにはおおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+6.8%(6月)、イギリス+7.9%(6月)。
○ 輸出は、ユーロ圏は持ち直しに足踏みがみられ、イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は、ユーロ圏は横ばい、イギリスはおおむね横ばいとなっている。