月例経済報告(R5.8.28) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、緩やかに回復している。
〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な 金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、 金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。
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日本の実質GDP成長率
○ 2023年4-6月期(1次速報)の実質GDP成長率は、前期比+1.5%(年率+6.0%)となった。
・23年4-6月は、供給制約の緩和やインバウンド回復に伴う輸出増など外需に牽引され、3期連続のプラス成長となった。
GDP水準は、名目に続き実質でも過去最高になった。
・実質個人消費は、2期連続増加の後、物価上昇の影響もあり減少した。一方、設備投資については、実質は、ソフトウェア
投資の増加により、2期連続で増加し、名目は、過去最高を更新し100兆円に達した。
・雇用者報酬は、名目で増加が続く中、実質も7期ぶりにプラスに転換した。今後も、30年ぶりの高い賃上げとなった春闘結果
の反映や今年10月の最低賃金引上げが、所得環境の改善につながる見込みとなっている。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直している。
・23年4-6月期の消費は、物価上昇の影響もあって、食料品等の非耐久財や家電等の耐久財が減少した一方、経済活動正常化
によりサービスの回復は継続している。家電は、巣ごもり需要による増加の後、多くの世帯で買い替え時期を迎えておらず、
エアコン、冷蔵庫、テレビ、パソコン等の販売は弱い状況が継続している。
・消費者マインドは、雇用環境の改善等を背景に持ち直しが継続している。一方、8月は台風の影響があり、お盆期間の国内
交通利用は、前年よりは回復したもののGWよりは弱いうごきとなった。また、例年よりも猛暑日が多く、空調の効いた商業
施設等ではプラスの影響がみられるが、屋外型レジャー施設にはマイナスに影響した。
・実質総消費動向指数は、前期比で、4月▲0.1%、5月▲0.1%、6月0.0%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、3月+2.6%、4月+1.5%、5月+0.6%、6月+0.2%、7月0.9%。
・6月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.1%となった。
物価
○ 国内企業物価は、緩やかに下落している。輸入物価は、このところ下落テンポが鈍化した。
消費者物価は、上昇している。
・消費者物価上昇の約7割は食料品である。電気・ガス代は、政策効果や既往の資源価格の低下により下落している。
8月については、円安の進行等を背景に、ガソリン価格が上昇した。特にガソリン支出額の多い地方の消費者にとっては家計
の負担が増加した。
・アメリカに比べ、我が国は、サービス部門の賃金と物価の伸びがともに緩慢となっている。ただし、足下では、サービスの
正規価格で改定頻度が上昇しており、これまでの価格が動きにくい状況に構造的な変化の兆しがみられる。賃上げの継続と
適切な価格転嫁を通じて、賃金と物価がともに持続的・安定的に上昇していくことが重要となる。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、3月+2.0%、4月▲12.1%、5月+11.8%、6月▲5.9%。
・持家着工数は前月比で、3月▲8.0%、4月▲0.8%、5月+0.1%、6月▲0.5%。
・貸家着工数は前月比で、3月+9.8%、4月▲12.9%、5月11.3%、6月▲8.9%。
・分譲着工数は前月比で、3月+0.1%、4月▲19.8%、5月+23.7%、6月▲5.9%。
○ 公共投資は、堅調に推移している。
・請負金額は前月比で、3月▲22.8%(出来高+2.9%)、4月▲4.1%(出来高+2.8%)、5月+3.0%(出来高▲5.0%)、6月+5.1%、
7月▲4.3%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・春闘の賃上げの反映やボーナスの増加によって賃金は改善した。6月のボーナスを含む特別給与は、コロナ禍前の水準を
超えて増加している。中小企業を含め、今後も賃上げの流れが継続していくことが重要となる。
・民間職業紹介における求人(主に正社員)では、高収入の求人が大幅に増加した。
・パート労働者の時給は、今年10月に最低賃金が引き上げられることもあり、さらに上昇の見込みとなっている。
・一方、 既婚女性の非正規労働者では、就業調整を実施する割合が高まっており、「年収の壁」による労働供給の制約が
強まっている。
・有効求人倍率は、2月1.34、3月1.32、4月1.32、5月1.31、6月1.30(正社員は1.03)となった。
・完全失業率は、2月2.6%、3月2.8%、4月2.6%、5月2.6%、6月2.5%。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば緩やかに改善している。
○ 設備投資は、持ち直している。
・23年度の大企業の設備投資計画では、能力増強や製品高度化等を目的とした前向きな動きがみられる。また、供給網強靱化の
観点から、今後、国内生産拠点を強化する企業の割合が大きく増加の見込みとなっている。
・中小企業の設備投資計画も6月時点では7.2%増と堅調となっている。このうちソフトウェア投資をみると、製造業や卸売・
小売では大幅な増加の計画になっており、DXの取組がみられる。一方、宿泊・飲食では遅れがでている。
・中小企業のうち価格転嫁実施企業では、設備投資に積極的な企業が多い。中小企業の設備投資促進のためには、引き続き
適切な価格転嫁に向けた取り組みも重要となる。
○ 業況判断は、持ち直している。
・ 倒産件数は、増加がみられる。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2022年9月+8、12月+7、2023年3月+1、6月+5、9月+9。
「大企業・非製造業」は、2022年9月+14、12月+19、2023年3月+20、6月+23、9月+20。
「中小企業・製造業」は、2022年9月▲4、12月▲2、2023年3月▲6、6月▲5、9月▲1。
「中小企業・非製造業」は、2022年9月+2、12月+6、2023年3月+8、6月+11、9月+7。
○ 生産は、持ち直しの兆しがみられる。
・鉱工業生産指数は前月比で、4月+0.7%、5月▲2.2%、6月+2.4%、7月(予測)▲0.2%、8月(予測)▲1.1%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、3月+5.8%、4月▲6.3%、5月+3.6%、6月+3.0%。
・電子部品・デバイスは前月比で、3月▲10.6%、4月+6.9%、5月0.0%、6月+6.8%。
・輸送機械は前月比で、3月+4.9%、4月+3.5%、5月▲4.0%、6月▲2.8%。
外需
○ 輸出はこのところ持ち直しの動きがみられる。輸入はおおむね横ばいとなっている。
・財の輸出は、供給制約の緩和に伴う自動車生産の回復や、PC出荷台数の下げ止まりにみられる半導体需要の底打ちも
背景に、各地域向けに増加しており、持ち直しの動きとなっている。
ただし、輸出先の経済動向には留意が必要である。
・サービスは、23年7月、中国以外からの訪日外客数はコロナ禍前の水準に回復した。一方、デジタル関連や保険等の
サービス分野では、支払(輸入)が受取(輸出)を超過し、赤字幅が拡大する傾向にあり、 サービス分野の競争力強化
も重要となっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、1か月ぶりに上昇した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、3月+1.3、4月+1.3、5月+0.4、6月▲1.4、7月+0.8。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3か月ぶりに上昇した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、3月+3.3、4月+1.6、5月▲1.3、6月▲1.6、7月+1.3。
アジア経済の動向
○ 中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。
先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが期待される。ただし、不動産市場の停滞に伴う影響等に留意
する必要がある。
・不動産市場の停滞が続き、住宅取引件数、不動産開発投資は減少となった。大手不動産企業は業績が悪化する中、債務再編交渉
が難航している。住宅需要の喚起や地方銀行等の金融リスク等に対応するため、政府は各種の政策措置を発表した※。
なお、IMFの推計では、地方融資平台(都市開発の資金調達のために地方政府が出資した特別目的会社)の債務残高は増加
傾向となっている。
※政策対応 ① 政策金利の引下げ(8/15、21)
・中期貸出ファシリティ(MLF)1年物を0.15%pt引下げ(2.50%) ・最優遇貸出金利(LPR)1年物を0.10%pt引下げ(3.45%)
② 住宅ローン金利等優遇要件の緩和(7/27)
・本人名義の保有住宅がなければ、1軒目購入時の住宅ローン金利・頭金比率等の優遇を2軒目以降にも適用。
③ 都市部の戸籍取得要件の緩和(8/3)
・出稼ぎ農民工の家族呼び寄せによる住宅需要の喚起、公営住宅整備の推進等。
④ 地方政府による地方銀行への資本注入(8/20)
・資本注入のための地方特別債の発行額増加(1-7月は2022年通年の2.3倍)。
⑤ 地方政府が地方融資平台の支援について検討(8/11報道)
・消費はこのところ持ち直しに足踏みがみられる。
・生産は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
・輸出はこのところ弱含みとなっている。
・固定資産投資はこのところ伸びが低下している。
・都市部調査失業率はおおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。なお、足下でマイナス転換。
・製造業購買担当者指数(PMI)はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。
○ 韓国では、持ち直しの兆しがみられる。
○ 台湾では、景気は下げ止まりの兆しがみられる。
○ インド・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直している。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は回復している。 先行きについては、回復が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等に
よる下振れリスクに留意する必要がある。
・2023年4-6月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+2.4%。
○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・消費を中心にアメリカの景気はが回復した背景には、雇用・所得環境の着実な改善がある。
感染症拡大期後は、労働供給の回復を上回るペースで労働需要が急増し、労働市場は更にひっ迫した。
・レジャー・接客等の業種では、労働者不足が依然として高水準で継続している。このため、レジャー・接客の賃金上昇率
は、全体を上回って推移している。
・全体の賃金上昇率が物価上昇率を上回っていることに加え、21年半ば以降に約1.1兆ドル(対名目GDP比約4%)の超過
貯蓄が取り崩されていることも消費の増加に寄与している。
・7月の失業率は3.5%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加しており、自動車販売台数は持ち直している。
○ 住宅着工数はこのところ緩やかに増加・住宅価格は緩やかに上昇している。
○ コア物価上昇率はこのところやや低下している。
○ 財輸出はおおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気はこのところ足踏み状態にある。
・23年4-6月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.0% (イギリスは+0.8%、ドイツは+0.1%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっており、イギリスは弱含んでいる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスは上昇している。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともにはおおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+6.6%(7月)、イギリス+7.7%(7月)。
○ 輸出は、ユーロ圏・イギリスともにおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は、ユーロ圏は横ばい、イギリスはおおむね横ばいとなっている。