月例経済報告(R5.10.30) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な 金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、 中東地域をめぐる情勢金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。
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世界の経済情勢
○ 世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に伴う
影響、物価上昇等による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視
する必要がある。
○ アメリカは、個人消費主導で堅調な成長が続き、景気は回復している。
中国は、不動産市場の停滞や輸出の弱含みが続く中で、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。
欧米の物価上昇率は低下傾向にある。
○ 世界の半導体出荷高は足下では底打ちの動きとなっている。今後は各国の半導体生産や輸出が増加する可能性がある。
○ 中国の貿易構造をみると、2020年以降、EV等を中心に自動車輸出が大幅に増加している。特に、「一帯一路」沿線の中央
アジア・西アジア・ロシア等への輸出が急増している。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直している。
・飲食や宿泊などサービス消費は持ち直しが継続している。家電販売のうち、エアコンや洗濯機は猛暑の影響や共働き需要も
あって増加し、携帯電話は新製品の発売もあり増加した。
・一方、消費者マインドは、食料など身近な品目の物価上昇率の高止まりもあり、持ち直しに足踏みがみられる。40年ぶりの
物価上昇に直面する中、消費者心理は物価動向に、より影響を受けるようになっている。
・30年ぶりとなる新たな経済ステージへの移行の好機を逃さず、賃金と物価の好循環に着実に結び付けていくためには、物価
上昇を上回る継続的な賃上げを実現する中で消費が増加していくことが重要である。
・実質総消費動向指数は、前期比で、6月0.0%、7月+0.1%、8月▲0.1%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、5月+0.6%、6月+0.2%、7月+0.9%、8月▲0.9%、9月▲1.0%。
・8月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.1%となった。
物価
○ 国内企業物価は、このところ横ばいとなっている。輸入物価は、おおむね横ばいとなっている。
消費者物価は、上昇している。
・原油価格は産油国の減産などで本年7月頃から再び上昇し、足下では中東情勢の影響もみられる。それに伴いガソリン価格も
上昇してきたが、9月からは激変緩和事業の新たな措置により、足下では175円程度に抑制されている。
・輸入物価は足下で上昇傾向に転じており、今後の川下の物価への波及にも注意が必要である。
・消費者物価は足下で前年比3%程度で推移。その中で、子育て関係の物価については、授業料や保育料は抑制されている一方、
塾・習い事、紙おむつなどで上昇した。
・食料品価格の上昇が続く中、消費者は、保存性のある品目は低価格の商品にシフトしている可能性がある。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はこのところ弱含んでいる。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、5月+11.8%、6月▲5.9%、7月▲4.1%、8月+4.5%。
・持家着工数は前月比で、4月▲0.8%、5月+0.1%、6月▲0.5%、7月+1.0%、8月+5.8%。
・貸家着工数は前月比で、4月▲12.9%、5月11.3%、6月▲8.9%、7月+1.5%、8月▲4.4%。
・分譲着工数は前月比で、4月▲19.8%、5月+23.7%、6月▲5.9%、7月▲16.0%、8月+17.0%。
○ 公共投資は、底堅く推移している。
・請負金額は前月比で、5月+3.0%(出来高+2.8%)、6月+5.1%(出来高▲5.0%)、7月▲4.3%(出来高+1.7%)、8月▲10.8%
(出来高▲0.4%)、9月+8.5%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・デフレに陥る前の1980年代や90年代前半までは、物価上昇を上回って名目賃金が伸びていたため、実質賃金の伸びがプラス
で推移してきた一方、足下では、物価上昇が名目賃金の伸びを上回り、実質賃金の下落が継続した。デフレ脱却に向けて、
物価上昇に負けない名目賃金の継続的な上昇が重要となってくる。
・宿泊・飲食サービス等の業種では、人手不足感が強まる中で、賃金上昇率に高まりがみられる。
・追加的に労働供給を望み、働くことができる人口は約530万人となった。人手不足の中、意欲のある就業者・就業希望者の
持てる力を十分に発揮できる環境整備が喫緊の課題である。
・労働時間の追加希望がある就業者には、「年収の壁」対策に加え、副業・兼業や転職の後押しが重要となってくる。
・仕事内容や勤務条件等のミスマッチに対しては、効果的なマッチングやリ・スキリングの支援、多様で柔軟な働き方の促進が
重要となってくる。
・有効求人倍率は、5月1.31、6月1.30、7月1.29、8月1.29(正社員は1.02)となった。
・完全失業率は、4月2.6%、5月2.6%、6月2.5%、7月2.7%、8月2.7%となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
・ 中小企業の製造業では厳しさが残るものの、コロナ禍から平時へと移行する中、非製造業の業況判断DIは、大企業・中小
企業ともにバブル期以降の最高水準となった。
・業況が改善する中で、人手不足への対応が課題となっている。雇用人員判断は、業種・規模にかかわらず人手不足感が強まって
いるが、とりわけ中小企業の非製造業では、人手不足感が過去最高水準となっている。
・非製造業の人手不足感は、コロナ禍後の経済正常化やインバウンド復活で需要が回復している宿泊・飲食、建設、運輸など
幅広い業種で拡大した。これら分野の求人倍率は平均を大きく上回る。
・多くの企業は、採用増加等により人手不足に対応している一方、省力化投資を行っている企業は未だ限定的で、人手不足が
厳しい業種では省力化・省人化投資への後押しが重要となってくる。
○ 設備投資は、持ち直している。
・今年度の企業の設備投資計画は前年度比13%増加と、投資マインドは引き続き堅調となっている。ただし、中小企業では、
非製造業で投資意欲の高まりがみられる一方、製造業はやや弱めの伸びである点に留意しなければならない。
・非製造業では、業況が改善し人手不足感が高まる中で、設備にも不足感がある。省力化投資や高付加価値化に資する投資へ
の後押しが重要となってくる。製造業の投資計画は、各地域で堅調である。半導体関連の集積が進む九州では、製造・非製造業
ともに他地域に比べて伸びが顕著となっている。
○ 業況判断は、総じてみれば緩やかに改善している。
・ 倒産件数は、増加がみられる。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2022年12月+7、2023年3月+1、6月+5、9月+9、12月+10。
「大企業・非製造業」は、2022年12月+19、2023年3月+20、6月+23、9月+27、12月+21。
「中小企業・製造業」は、2022年12月▲2、2023年3月▲6、6月▲5、9月▲5、12月▲2。
「中小企業・非製造業」は、2022年12月+6、2023年3月+8、6月+11、9月+12、12月+8。
○ 生産は、持ち直しの兆しがみられる。
・鉱工業生産指数は前月比で、6月+2.4%、7月▲1.8、8月▲0.7%、9月(予測)+5.8%、10月(予測)+3.8%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、5月+3.6%、6月+3.0%、7月▲4.8%、8月▲0.5%。
・電子部品・デバイスは前月比で、5月0.0%、6月+6.8%、7月▲5.1%、8月+0.5%。
・輸送機械は前月比で、5月▲4.0%、6月▲2.8%、7月+0.4%、8月▲3.7%。
外需
○ 輸出はこのところ持ち直しの動きがみられる。輸入はおおむね横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、6月▲1.4、7月+0.8、8月▲0.8、9月▲3.7。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、6月▲1.6、7月+1.3、8月▲2.7、9月▲1.9。
アジア経済の動向
○ 中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。 先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが
期待される。ただし、不動産市場の停滞に伴う影響等に留意する必要がある。
・実質GDP成長率は、23年7-9月期で前年比+4.9%(前期比+1.3%)。
・消費は持ち直しに足踏みがみられる。
・生産は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
・輸出はこのところ弱含みとなっている。
・固定資産投資は伸びが低下している。
・新築住宅販売価格はこのところ下落している。
・都市部調査失業率はこのところ低下となっている。
・消費者物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)はこのところ持ち直しの動きがみられる。
○ 韓国では、持ち直しの兆しがみられる。
○ 台湾では、景気は下げ止まりの兆しがみられる。
○ インド・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直している。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は回復している。 先行きについては、回復が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等に
よる下振れリスクに留意する必要がある。
・2023年4-6月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+2.1%。
○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・9月の失業率は3.8%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加しており、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数はこのところ緩やかに増加・住宅価格は上昇している。
○ コア物価上昇率はこのところやや低下した。
○ 財輸出は緩やかに増加した。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏・イギリスでは、景気はこのところ足踏み状態に、ドイツでは弱含んでいる。
・23年4-6月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+0.6% (イギリスは+0.8%、ドイツは+0.1%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっており、イギリスは弱含んでいる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスは上昇している。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともにこのところ低下している。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+5.5%(9月)、イギリス+6.8%(9月)。
○ 輸出は、ユーロ圏・イギリスともにおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は、ユーロ圏は横ばい、イギリスはおおむね横ばいとなっている。