月例経済報告(R5.11.22) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、このところ一部に足踏みもみられるが、緩やかに回復して いる。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な 金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の 下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、 物価上昇、中東地域をめぐる情勢金融資本市場の変動等の影響に 十分注意する必要がある。
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世界の経済情勢
○ 世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に
伴う影響、物価上昇等による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動の
影響を注視する必要がある。
○ アメリカは、雇用の増勢がコロナ禍前の景気拡大局面の平均水準まで落ち着きつつあり、物価上昇率が低下傾向にある
中で、政策金利はこのところ据置きとなっている。
○ ユーロ圏経済、ドイツ経済及び英国経済は弱含みとなっている。 ドイツの個人消費は、2021年後半以降、横ばいで、背景
には、名目賃金の伸びが物価上昇を超えない状況がある。一方、スペインは、名目賃金の伸びが物価上昇を上回り、個人
消費は持ち直し基調、経済も堅調となっている。
GDPの動向と供給力強化に向けた課題
○ 2023年7-9月期のGDP1次速報では、名目GDPは横ばいの一方、実質成長率は前期比▲0.5%(年率▲2.1%)と3期ぶりに
マイナスとなった。
○ 上場企業の決算をみると、経常利益は、7-9月期としては過去最高を更新した一方、企業の設備投資は、名目では2期ぶり
に増加したものの、実質では2期連続の減少となり、持ち直しに足踏みがみられた。
○ 1980、90年代の景気拡大局面では、労働投入の寄与がわずかなプラスないしマイナスの中、資本投入と生産性の伸びが、
潜在成長率を引き上げていたが、近年はこれらの寄与が縮小している。供給力(潜在成長率)引上げのためには、国内の新規
投資拡大、研究開発や人への投資を通じた生産性向上が喫緊の課題となってくる。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直している。
○ 名目では増加した一方、実質では物価上昇の影響もあり横ばいになった。雇用者報酬は、名目では増加基調にある一方、
実質は、物価上昇の影響で二期ぶりに減少した。
・7-9月の個人消費は、過半を占めるサービスの増加が継続した一方、耐久財を中心に財が減少した。財は、物価上昇の影響
のほか、工場停止を受けた自動車の国内向け販売の減少という一時的要因も影響した。
・外食サービスは、名目・実質ともに緩やかな増加基調にあり、コロナ前水準を超える。コロナ禍で控えられていた年末の
外食需要にも期待できる。
・小売販売を業態別にみると、低価格の食品への需要増加等もあり、ドラッグストアの売上が堅調である。
・実質総消費動向指数は、前期比で、7月0.0%、8月▲0.1%、9月0.0%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、6月+0.2%、7月+0.9%、8月▲0.9%、9月▲1.0%、10月+0.5%。
・9月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.4%となった。
物価
○ 国内企業物価は、横ばいとなっている。輸入物価は、このところ上昇している。
消費者物価は、上昇している。
・食料品は値上げの一服で上昇幅が縮小する一方、生鮮食品は上昇幅が拡大した。特に、猛暑による生育不良でトマトなどの
野菜の価格が高騰している。
・コロナ前と比べると、財の物価上昇に広がりがみられる。サービス業では、労務費増加分の価格転嫁が相対的に限定的と
なった。賃金と物価の好循環の実現に向け、適切な価格転嫁の促進が鍵となる。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設は弱含んでいる。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、6月▲5.9%、7月▲4.1%、8月+4.4%、9月▲1.5%。
・持家着工数は前月比で、5月+0.1%、6月▲0.5%、7月+1.0%、8月+5.8%、9月▲9.3%。
・貸家着工数は前月比で、5月11.3%、6月▲8.9%、7月+1.5%、8月▲4.4%、9月+4.8%。
・分譲着工数は前月比で、5月+23.7%、6月▲5.9%、7月▲16.0%、8月+17.0%、9月▲2.0%。
○ 公共投資は、底堅く推移している。
・請負金額は前月比で、6月+5.1%(出来高▲5.0%)、7月▲4.3%(出来高+1.7%)、8月▲10.8%(出来高▲0.4%)、9月+8.5%
(出来高+0.7%)、10月▲7.9%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・就業者数を産業別に見ると、過去5年間で、医療・福祉、情報通信等で大きく増加する一方、卸売・小売では減少、コロナ禍
で大きく減少した宿泊・飲食等は、回復するも依然コロナ前を下回る。
・公定価格の医療・福祉等を除く産業計では、春闘賃上げを反映し、所定内給与で2%程度賃金上昇した。
・ 年末のボーナスは、好調な企業収益等も背景に、現時点では、夏以上の高い伸びが見込まれている。
・我が国の実質賃金上昇率は昨年からマイナスが継続している一方、欧米では足下で前年比プラスに転化した。
・長期的にみると、アメリカでは20年間で平均名目賃金が1.9倍に増加した一方、我が国では横ばいとなっている。職種別に
比較すると、弁護士、ソフトウェア開発、大学教員、トラック運転手などでアメリカとの差が大きい。
・多くの主要国では、長期的に名目賃金上昇率が物価上昇率を上回って推移しているが、日本では、長期的には両者ともゼロ近傍
となっている。
・有効求人倍率は、6月1.30、7月1.29、8月1.29、9月1.29(正社員は1.02)となった。
・完全失業率は、5月2.6%、6月2.5%、7月2.7%、8月2.7%、9月+2.6%となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
○ 設備投資は、持ち直しに足踏みがみられる。
○ 業況判断は、総じてみれば緩やかに改善している。
・ 倒産件数は、コロナ禍を経て経済社会活動が正常化する中、昨年秋以降は増加傾向で推移している。飲食等のサービス業を中心
に、小規模な事業者の倒産が増加した。
・ 民間金融機関を通じた実質無利子無担保融資(ゼロゼロ融資)を受けた中小企業の状況をみると、本年8月末にかけて、据置期間
中の割合が低下し、完済または借り換えの割合が増加した。条件変更や代位弁済の割合は微増となっている。
・ 長期的にみると、足下は、件数・負債金額別の構成比ともにコロナ前と同程度である。なお、バブル期前の1980年代半ばは1500件
前後で、負債金額の構成も異なっていた。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2022年12月+7、2023年3月+1、6月+5、9月+9、12月+10。
「大企業・非製造業」は、2022年12月+19、2023年3月+20、6月+23、9月+27、12月+21。
「中小企業・製造業」は、2022年12月▲2、2023年3月▲6、6月▲5、9月▲5、12月▲2。
「中小企業・非製造業」は、2022年12月+6、2023年3月+8、6月+11、9月+12、12月+8。
○ 生産は、持ち直しの兆しがみられる。
・鉱工業生産指数は前月比で、7月▲1.8%、8月▲0.7%、9月+0.5%、10月(予測)+3.9%、11月(予測)▲2.8%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、6月+3.0%、7月▲4.8%、8月▲0.5%、9月▲3.4%。
・電子部品・デバイスは前月比で、6月+6.8%、7月▲5.1%、8月+0.5%、9月▲0.2%。
・輸送機械は前月比で、6月▲2.8%、7月+0.4%、8月▲3.7%、9月+4.2%。
外需
○ 輸出はこのところ持ち直しの動きがみられる。輸入はおおむね横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 消費者マインドは、持ち直しに足踏みがみられる。
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、3か月連続で下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、7月+0.8、8月▲0.8、9月▲3.7、10月▲0.4。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3か月連続で下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、7月+1.3、8月▲2.7、9月▲1.9、10月▲1.1。
アジア経済の動向
○ 中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが
期待される。ただし、不動産市場の停滞に伴う影響等に留意する必要がある。
・実質GDP成長率は、23年7-9月期で前年比+4.9%(前期比+1.3%)。
・消費は持ち直しに足踏みがみられる。
・生産は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
・財輸出は弱含みとなっている。
・固定資産投資は伸びが低下している。
・新築住宅販売価格は下落している。
・都市部調査失業率はこのところ低下となっている。
・消費者物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。
○ 韓国・台湾では、景気は持ち直しの動きがみられる。
○ インド・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直している。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は回復している。 先行きについては、回復が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等に
よる下振れリスクに留意する必要がある。
・2023年7-9月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+4.9%。
○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・10月の失業率は3.9%となった。
○ 設備投資はこのところ増勢が鈍化している。
○ 生産は緩やかに増加した。
○ 消費は増加しており、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数はこのところ緩やかに増加・住宅価格は上昇している。
○ コア物価上昇率はこのところおおむね横ばいとなっている。
○ 財輸出は緩やかに増加した。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気は弱含んでいる。
・23年7-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で▲0.2% (イギリスは▲0.1%、ドイツは▲0.1%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスは上昇している。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏は低下している。イギリスはこのところ低下している。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+5.0%(10月)、イギリス+6.3%(10月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏・イギリスともにおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはおおむね横ばいとなっている。