月例経済報告

 

月例経済報告(R6.3.22)

基調判断

〈現状〉

・景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の

 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、

 世界的な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外

 景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

 また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等

 の影響に十分注意する必要がある。さらに、令和6年能登半島地震

 の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。

  先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に伴う

  影響による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。

 

GDP速報

   202310-12月期(2次速報)のGDP成長率は、実質では前期比+0.1%(年率+0.4%)となった。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、持ち直しに足踏みがみられる。

新車販売(消費に占める輸送機械の割合は2.6%)は、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響により、このところ弱い動きと

 なっている。

・国内旅行消費については、宿泊施設の稼働率は、コロナ禍の落ち込みから回復した。一方、宿泊業の就業者数はコロナ禍前に

 戻っておらず供給制約。こうした中で、客室単価は上昇する一方、日本人宿泊者数はこのところ横ばいとなっている。

 ・消費者のマインドや資産価値(株式等)に関する見方は改善が継続している。

 ・実質総消費動向指数は、前期比で、100.0%11月▲0.2%、12月▲0.3%1月▲0.2%

   ・消費者態度指数(DI)は前月差で、10+0.5%11+0.4%12+1.1%1+0.8%2+1.1%。 

   ・1月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.1%となった。

 

物価

○ 国内企業物価は、横ばいとなっている。輸入物価は、おおむね横ばいとなっている。

  消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。

消費者物価の前年比は、昨年秋以降2%台で推移。なお、資源価格が落ち着く下で、電気・ガスの激変緩和事業の開始から1年

  が経過し、押下げ効果が薄まったことから、2月は上昇幅が拡大。一方、食料品は、値上げの一服から、引き続き上昇幅が緩やか

  になった。

・デフレに陥る前の1990年代前半以前は、サービスの物価上昇率は2%前後で推移している。足下では、財の物価上昇が落ち着く一方

  で、一般サービスの上昇率が徐々に高まり、財の上昇率と同水準となった。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設は弱含んでいる。 

・住宅の新設着工戸数は、持家を中心に弱含みが続く。長期的にみると、1960年代後半に住宅戸数(ストック)が世帯数を上回り、

  持家など戸建の住宅を中心に、新規着工戸数は減少トレンドにある。

・世帯構造の変化をみると、単身世帯等の割合が増加する一方で、夫婦と子供のいる世帯や三世代同居世帯など戸建住宅の需要層と

  考えられる世帯の割合が減少した。

・建築費の高止まりの中で、戸建住宅の新設着工が減少する一方で、中古住宅の販売量は増加傾向にある。リフォーム促進等を

  通じた中古住宅流通市場の拡大も重要となっている。

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、10+0.1%11月▲2.0%12+3.1%1月▲1.5%

・持家着工数は前月比で、10月▲6.6%11+1.7%12+1.7%1+0.4%

・貸家着工数は前月比で、10+0.9%11月▲2.7%12+0.6%1+5.0%

・分譲着工数は前月比で、10+5.0%11月▲4.8%12+9.1%1月▲11.0%

   公共投資は、底堅く推移している。

・請負金額は前月比で、9+8.5%(出来高+0.7%)、10月▲3.3%(出来高▲0.3%)、11+4.3%(出来高▲0.6%)、12+5.7%

(出来高+0.9%)、1月▲4.5%(出来高+2.6%)、2+21.7%             

 

雇用・賃金の動向

    2024年春闘(第1回集計)の賃上げ率は、定昇込みで5.28%、ベアで3.7%と、30年ぶりとなった

昨年を大きく上回った。

   ベアは、中小企業でも3%近い伸びとなり、組合計のベースアップ額は、平均月1万円を超える水準となった。

   賃金の改定は、昨年のパターンでは、5月頃から夏場にかけて実際の賃金支払に徐々に反映されている。現在、一般労働者の

    所定内給与の伸びは前年比1%台半ばだが、今後高まっていくことが見込まれる。

   昨年、3%以上の賃上げを行った中小企業は6割弱、うち価格転嫁ができた企業では7割強となっている。すそ野の広い賃上げの

    実現のためには、重層的取引の先端に至るまでサプライチェーン全体での適切な労務費の価格転嫁と製品価格の設定が重要となる。

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

    ・有効求人倍率は、101.30111.28121.2711.27(正社員は1.00)となった。

   ・完全失業率は、92.6%102.5%112.5%122.5%12.4となった。

 

投資・収益・業況

○ 企業収益は、総じてみれば改善している。

  ・昨年10-12月期の企業収益は、経常利益・営業利益ともに10-12月期として過去最高となるなど、総じて改善が継続している。

   他方、1月の生産活動は、一部自動車メーカーの生産停止により低下した。輸送機械では2月も減少が続く見込みとなっている。

・自動車産業は裾野が広く、関連品目の生産も低下した。また、半導体品目の一部では、令和6年能登半島地震の影響もみられる。

・こうした中、1-3月期の大企業の景況感は、製造業で大きくマイナスとなった。ただし、4-6月期以降の先行きは改善した。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

 ・202310-12月期の設備投資は、実質前期比プラス2.0%と上方改定、名目金額(年率換算)は1991年以来初めて100兆円を超えた。

  半導体や自動車関連で生産能力強化のための工場新設等の投資が実行され始め、契約金等の支払が進んでいる結果とみられる。

 ・他方、企業の高い投資計画に比べ、実際の投資の伸びは依然、例年より弱く、引き続き供給制約等の影響に留意が必要となる。

2024年度の投資計画(215日時点調査)は、2023年度の高い実績見込み(9.3%)の後、前年度比7.5%の強い伸びとなっている。

○ 業況判断は、改善している。

  倒産件数は、増加がみられる。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20233+16+59+912+1220243+8

  「大企業・非製造業」は、20233+206+239+2712+3020243+24

  「中小企業・製造業」は、20233月▲66月▲59月▲512+120243月▲1

  「中小企業・非製造業」は、20233+86+119+1212+1420243+7

 

生産

 生産は、持ち直しに向かっていたものの、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響により、このところ生産活動が低下している。

・鉱工業生産指数は前月比で、11月▲0.6%12+1.2%1月▲6.7%2月(予測)+4.8%3月(予測)+2.0%

・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、+10+0.3%11+1.6%12+4.4%1月▲6.1%

・電子部品・デバイスは前月比で、10+6.6%11月▲0.9%12+2.0%1月▲4.0%

   ・輸送機械は前月比で、10+2.2%11月▲1.6%12+2.0%1月▲9.9%

 

外需

○ 輸出はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。輸入はこのところ弱含んでいる。

財の輸出は、アメリカ向けは増加傾向が続く一方、欧州向けが弱く、アジア向けも持ち直しの動きに足踏みがみられる。

・インバウンドについて、訪日外客数は2月として過去最高となった。一人当たり旅行消費額は欧州等からの旅行者が高い。

・財の輸入は、弱含みとなっている。紅海危機の影響により、1月は、欧州からの輸入について、海上輸送割合が高いワイン、

 化粧品、自動車部分品等の輸入が大幅に減少した。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2月ぶりに上昇した

・現状・季節調整値DIは前月差で、11月±0.012+1.01月▲1.62+1.1

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、4か月連続で上昇した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、11+1.012+0.11+2.12+0.5

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが期待

  される。ただし、不動産市場の停滞に伴う影響等に留意する必要がある。

・実質GDP成長率は、2310-12月期で前年比+5.2%(前期比+4.1%)。

・消費は持ち直しに足踏みがみられる。

・生産は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。

・財輸出はおおむね横ばいとなっている。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価は下落した。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きに足踏みがみられる。

   【全国人民代表大会(3/5~11 主な目標・政策方針(決定)】

○ 24年の成長率目標は5%程度。(23年目標5%程度、実績5.2%)

○ 現状認識:有効需要が不足し、一部産業(鉄鋼、不動産等)の 生産能力が過剰。

雇用機会不足とミスマッチ失業が併存。

 一部地方の財政がひっ迫。

○ 財政拡大: 新たに超長期特別国債を発行、24年は1兆元(対GDP比0.8%)。

地方特別債の発行枠:3.9兆元(23年目標3.8兆元)

財政赤字目標は対GDP比3%で維持。

○ 耐久財消費の拡大:自動車の買替え促進(老朽車の強制廃棄を執行)、

自動車ローン頭金比率(現行20%以上)の引下げ等。

 ○ 重点分野のリスクの防止・解消: 不動産企業の資金需要を支援、ビジネスモデルを刷新。

 地方政府の債務リスク解消と行政の安定運営を一体的に推進。

 

○ 韓国では、景気は持ち直しの動きがみられる。

  韓国経済は、世界的な半導体需要の持ち直しにより、景気は持ち直しの動きがみられる。長期的にみると、1997年のアジア

  通貨危機後、 安定的なマクロ経済環境の維持に努めたこともあって着実に成長し、2023年の一人当たり名目GDPは3.3万ドル。  

・他方、合計特殊出生率は0.72と低く、人口は50年後(2072年)には約3,600万人に減少することが見込まれている。

○ インドでは、景気は回復している。

○ インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ 台湾・タイでは、景気は持ち直している。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等による

  下振れリスクに留意する必要がある。

・アメリカの一人当たり名目GDPは約8.2万ドルで、日本の約2.4倍。長期的にみると実質GDPはおおむね2%以上の成長率

 で推移。

 足下では6四半期連続で2%以上のプラス成長が継続し、2023年は2.5%2024年も2%程度の見通し。

・安定的な物価上昇と、それを超える名目賃金の上昇に支えられた個人消費の増加が、内需主導の経済成長をけん引している。

2008年の世界金融危機のような大きな経済的ショックに見舞われても、デフレには陥っていない。

・アメリカは世界の名目GDPの約25%を占める最大のマーケットである。2023年の財輸入においては、カナダ・メキシコ・

 中国のシェアが全体の約4割となっている。中国のシェアは、2001年のWTO加盟後に急上昇した。2009年以降首位で

 あったが、米中貿易摩擦を契機に、2023年のシェアは2位に低下した。対内直接投資残高では日本は首位である。

 ・コロナ禍後の就業者数をみると、55歳以上は伸びが停滞しており、外国生まれ労働者の増加にもかかわらず、労働供給の不足

  が継続している。株価上昇を背景とした金融資産の増加がコロナ禍後の早期引退に繋がっている可能性。名目賃金上昇率は

  高水準で推移しており、物価上昇率は鈍化傾向にあるものの、金融政策に与える影響に留意が必要である。

 ・202310-12月期のGDP成長率(2次推計値)は、前期比年率+3.2%

○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。

 ・2月の失業率は3.9%となった。

○ 設備投資は緩やかに増加している。

○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産はおおむね横ばいとなっている。

○ 住宅着工数はこのところ緩やかに増加・住宅価格は上昇している。

○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。

○ 財輸出は緩やかに増加した。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気は弱含んでいる。

 ・2310-12月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で▲0.2% (イギリスは▲1.4%、ドイツは▲1.1%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに低下している。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+3.3%2月)、イギリス+5.5%1月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。イギリスのサービス輸出はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。