月例経済報告

 

月例経済報告(R6.5.27)

基調判断

〈現状〉

・景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の

 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、

 世界的 な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、

 海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

 また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等

 の影響に十分注意する必要がある。さらに、令和6年能登半島地震

 の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。

  先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に伴う

  影響による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要が

  ある。

 

GDPの動向

   2023年度のGDP成長率は、名目で5.3%、実質で1.2%となった。名目成長率は1991年度(5.3%)以来の高い伸びである。

   20241-3月期(1次速報)のGDP成長率は、名目においては前期比プラス0.1%と2四半期連続のプラスとなり、名目GDPの

  実額は599兆円と過去最高を更新した一方、実質では前期比▲0.5%(年率▲2.0%)と2四半期ぶりのマイナスとなった。

・景気の動きによるものとは言えない各種特殊要因がマイナスに寄与した。

具体的には、令和6年能登半島地震の影響のほか、一部自動車メーカーの生産・出荷停止事案の影響もあって、実質前期比

で、個人消費は▲0.7%、設備投資も▲0.8%となった。

・輸出は、前期のサービス輸出の大幅増の反動もあって、実質前期比で▲5.0%となった。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、持ち直しに足踏みがみられる。

20241-3月期は、耐久財では、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響で大幅に減少(実質GDP成長率への寄与度で

 ▲0.6%)したものの、消費の過半を占めるサービスは、外食等を中心に増加傾向が継続している。

・4月の状況をみると、一部自動車メーカーの出荷の再開が徐々に進む中、新車販売台数は持ち直しの動きがみられる。

家電販売は、平年比高めの気温もあり、エアコン販売に例年より早めの動きがみられる。

1月に落ち込んだ携帯電話も4月は増加に転じた。

外食売上高は、コロナ禍を経て、店舗数は減少傾向の一方、一店舗当たりの売上は増加、構造変化もみられる。

実質総消費動向指数は、前期比で、12月▲0.3%10.0%2+0.4%3月▲0.0%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、12+0.9%1+0.8%2+0.9%3+0.5%4月▲1.2%。 

  ・3月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.3%となった。

 

物価

○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。

消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。

消費者物価上昇率はピーク時(2023年1月の4.3%)から低下し、202311月以降は2%台で推移している。

・他方、円安により、円ベースの輸入物価に上昇圧力がみられる。中東情勢の不安定化や中国経済の持ち直し期待によって、

 原油や銅価格は上昇傾向、小麦など穀物価格も気候要因もあって上昇の兆しがみられる。これらが、国内物価を押し上げる

 リスクに留意する必要がある。

BtoB(企業間取引)のサービス価格は、過去は1%程度以下で推移してきたが、ここ1年ほどは2%台にレベルシフトしている。

 人件費比率が高い分野で顕著な上昇がみられる。広告では、インターネット広告の価格が大きく伸びるなど構造に変化がみら

 れる。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設は弱含んでいる。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、12+3.1%1月▲1.5%2月▲0.9%3月▲4.4%

・持家着工数は前月比で、12+1.7%1+0.4%2+7.1%3月▲1.7%

・貸家着工数は前月比で、12+0.6%1+5.0%2月▲1.0、▲7.9%

・分譲着工数は前月比で、12+9.1%1月▲11.0%2月▲9.3%3+0.5%

   公共投資は、堅調に推移している。

設備投資の25%を占める建設投資は、着工ベースの工事費予定額では、昨年秋以降増加傾向にあるが、進捗ベースの工事出来高

 の増加は途上にある。手持ち工事高は積み上がっており、今後これらが進捗し、投資につながることが期待される。

・公共投資については、進捗ベースの公共工事出来高は、防災・減災、国土強靱化予算の執行の効果もあり、増加が続いており、

 堅調に推移している。手持ち工事高も高水準で増加傾向にあり、引き続き、投資としての発現が期待される。

・請負金額は前月比で、11+4.3%(出来高▲0.6%)、12+5.7%(出来高+0.9%)、1月▲4.5%(出来高+2.6%)、2+21.7%

(出来高+2.9%)、3月▲10.1%(出来高+1.9%)、4+1.4%             

 

雇用・賃金の動向

○ 新たなビッグデータ(給与計算代行サービス)から、本年4月の賃金上昇率をみると、昨年同様、若年層の伸びが高いことに加え、

   昨年は横ばいだった40代でも伸びがみられた。33年ぶりの高い伸びとなった今年の春闘賃上げの広がりがみられる。

○ 初任給も、幅広い産業で増加させる企業が増え、伸び率も昨年を大きく上回る。夏季ボーナスも、連合集計では平均支給月数が

   前年を上回り、上場企業では、支給金額が前年比4.6%と昨年を上回る伸びとなった。

○ 労働需給のひっ迫に加え、昨年10月の最低賃金引上げもあって、パート・アルバイトの募集時の時給は、全国平均で1,141円、

   前年比で3%台半ばの伸び。最低賃金引上げと募集時の時給には正の相関が見られる。

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

・有効求人倍率は、121.2711.2721.2631.28(正社員は1.03)となった。

・完全失業率は、112.5%122.5%12.422.632.6となった。

 

投資・収益・業況

○ 企業収益は、総じてみれば改善している。

  ・場企業の経常利益は1-3月期として過去最高、産業計で年度でも過去最高となった。企業の現預金の水準は他国より高く、

   増加傾向。2000年代後半以降、総資産に対する比率も上昇している。企業部門の資金を賃金や投資に回していくことが重要

   となる。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

○ 業況判断は、改善している。ただし、製造業の一部では、一部自動車メーカーの生産・出荷停止による影響がみられる。

  倒産件数は、増加がみられる。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20236+59+912+1220243+116+10

  「大企業・非製造業」は、20236+239+2712+3020243+346+27

  「中小企業・製造業」は、20236月▲59月▲512+120243月▲16+0

  「中小企業・非製造業」は、20236+119+1212+1420243+136+8

 

生産

 生産は、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響により、生産活動が低下していたが、このところ持ち直しの動きがみられる。

・製造業の生産活動は、一部自動車メーカーの生産・出荷停止事案により、輸送機械を中心に低下していたが、生産再開に伴い、

 3月以降持ち直しの動きがみられる。設備投資に含まれる貨物車(トラック、バン等)の登録台数も、3月以降徐々に持ち直し

 の動きがみられる。

・鉱工業生産指数は前月比で、1月▲6.7%2月▲0.6%3+4.4%4月(予測+4.1%)、5月(予測+4.4%)。

・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、12+4.4%1月▲6.1%2月▲3.2%3+11.6%

・電子部品・デバイスは前月比で、12+2.0%1月▲4.0%2+0.2%3+9.2%

   ・輸送機械は前月比で、12+2.0%1月▲9.9%2月▲11.5%3+12.6%

 

外需

○ 輸出はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。輸入おおむね横ばいとなっている。

 ・財の輸出は、自動車や建設用・鉱山用機械は、供給制約もあって軟調である一方、世界的な半導体需要の回復に伴い、半導体

  製造装置は持ち直し傾向が続く。

 ・鉄鋼輸出は、日本は緩やかな減少傾向の一方、中国が供給過剰を背景に、アジア向けを中心に低価格品の輸出を増大。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

・サービス収支は、旅行では黒字の一方、大宗を占めるその他サービスでは、デジタル関連や保険等で赤字が拡大した。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2月連続で下降した

・現状・季節調整値DIは前月差で、1月▲1.62+1.13月▲1.54月▲2.4

 ○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、1+2.12+0.53月▲1.8%4月▲2.7

  

アジア経済の動向  

  ○ 中国では、景気は政策効果により持ち直しの兆しがみられる。先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうこと

   が期待される。ただし、不動産市場の停滞や物価の下落が続くことによる影響等に留意する必要がある。

・中国の20241-3月期の実質GDP成長率は5.3%(前期比年率+6.6%)。

・消費は持ち直しに足踏みがみられる。

・生産は、持ち直している。

・財輸出はおおむね横ばいとなっている。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価は下落した。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。

   ★最近の政策対応

○ 自動車の買換え補助金(4/26発表)

2024年中の買換えに対し最高1万元(約 20万円)を支給。

○ 住宅在庫の買取り等(5/17発表)

   ・地方政府が国有企業を通じて、住宅在庫の一部を買い取り、低所得者向けの公営住宅に転換。

・地方政府が開発の進んでいない土地を買い戻し、不動産企業の債務を圧縮。

・住宅ローン金利の下限を撤廃、頭金比率の引下げ。

 ○ 韓国では、景気は持ち直している。

 ○ インドでは、景気は回復している。

 ○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

 ○ タイでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等に

  よる下振れリスクに留意する必要がある。

個人消費主導で景気は拡大している。金融引締めが続く中でも高成長が続く背景には、移民流入の上振れや、半導体法

 等による設備投資の緩やかな増加がある。

・労働需給は緩和傾向にあり、名目賃金上昇率に一服感がみられるものの、依然として高水準となっている。

・物価上昇率は、前月比でみると、財の寄与が縮小する中で、サービスを中心に緩やかに上昇した。

20241-3月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+1.6%

○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。

4月の失業率は3.9%となった。

○ 設備投資は緩やかに増加している。

○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産はおおむね横ばいとなっている。

○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格は上昇している。

○ コア物価上昇率はおゆるやかに上昇した。

○ 財輸出は緩やかに増加した。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気は弱含んでいる。

EUは1980年代以降市場統合が進展し、2004年には東欧諸国が加盟するなど拡大、中国と同程度の経済規模となった。

実質GDPは、2023年秋以降、ドイツを含むユーロ圏で弱含むものの、底入れに向かうことが期待される。

2023年第3四半期以降、消費者物価上昇率の低下を受け、実質賃金はプラスで推移している。

2020年にEUを離脱したイギリスは、サービス業が経済成長をけん引してきた。経常収支は赤字傾向となっている。

広告・専門的コンサル等のサービス貿易は黒字傾向である一方、財貿易は赤字傾向にある。

所得収支は、証券投資による収益(株式配当、債券利子)の赤字額が直接投資による収益の黒字額を上回り、赤字傾向。                       ユーロ圏で急速に存在感を高めているアイルランド経済は、製薬、IT企業を積極的に誘致し高い経済成長を実現した。

 イギリスのサービス貿易相手国としても重要な地位を占める。

・20241-3月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.3% (イギリスは+2.5%、ドイツは+0.9%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに低下している。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.8%4月)、イギリス+4.0%4月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。イギリスのサービス輸出は持ち直しの動きがみられる。 

○ 生産は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。