月例経済報告(R6.7.25) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、 欧米における高い金利水準の継続に伴う影響や中国経済の先行き 懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク となっている。 また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等 の影響に十分注意する必要がある。さらに、令和6年能登半島地震 の経済に与える影響に十分留意する必要がある。
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○ 世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場
の停滞の継続に伴う 影響による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の
影響を注視する必要がある。
○ 欧米の輸入物価は、2023年は前年比でマイナスとなり、為替レートの安定を背景とした足下でのゼロ近傍となっている。
一方、アジア諸国はアメリカとの金利差から為替レートが下落した。輸入物価を通じた物価上昇を避け、それぞれの物価安定
目標を達成するために、各中央銀行(中国を除く)は政策金利を引上げた。一部の国は経済政策上の困難に直面している。
令和6年能登半島地震の影響
○ 定額北陸地域の景気ウォッチャーの景況感をみると、2024年1月に大きく落ち込んだ後、足下では全国平均を上回って
回復傾向となっている。北陸及び石川県の鉱工業生産指数も、4~5月にかけて緩やかに持ち直している。地震の影響に
よる稼働停止もあって、2024年1月に大きく減少した混成ICの生産も、昨年末の水準まで回復した。
○ 旅行需要も回復。被害が大きかった石川県の宿泊者数は、「北陸応援割」の効果もあって、3月以降大きく増加した。特に
インバウンドの宿泊者は、3月以降、全国平均を大きく上回る伸びとなっている。
○ 引き続き、現場が抱える課題を速やかに把握し、被災者の生活・生業の再建を始め復旧・復興を進めることが重要となる。
個人消費の動向
○ 個人消費は、持ち直しに足踏みがみられる。
・定額減税が6月から始まる中、オルタナティブデータによる週次データでは、6月下旬からは消費支出は増加傾向で推移
している。消費者の景況感も持ち直し傾向にあり、景気ウォッチャーの先行き判断でも、定額減税に対する期待感がみら
れる。
・車販売台数は、昨年末以降の一部自動車メーカーの生産・出荷停止事案の影響が縮小し、持ち直し。6の新たな認証不正
事案に伴う販売台数への下押しは前回に比べると限定的となった
・消費者マインドのうち物価に敏感な「暮らし向き」を世帯年収別にみると、相対的に収入の高い世帯では横ばいの一方、
相対的に収入の低い世帯では低下しており、ばらつきが拡大していることに留意が必要である。
・実質総消費動向指数は、前期比で、2月+0.4%、3月▲0.1%、4月0.0%、5月0.0%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、2月+0.9%、3月+0.5%、4月▲1.2%、5月▲2.1%、6月+0.2%。
・5月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.1%となった。
物価
○ 資源価格をみると、ドルベースでは、原油の上昇は緩やかで、銅の上昇にも一服感がみられるが、円安の進行を背景に、
円ベースでは高止まりとなっている。仕入価格が上昇する中で、企業においては、世界金融危機前とは異なり、販売価格
への転嫁の動きが進んでいる。
○ 中小企業の半数以上が、円安は、原材料や部品、燃料・エネルギーの負担増等により、業績に対してデメリットが大きいと
認識している。また、自社にとって望ましい為替レート水準として、中小企業の約7割は1ドル110円以上135円未満と回答した。
・為替レートは、2022年以降、円安ドル高が進行し、2024年7月初めには1ドル161円台に。
実質実効為替レートでみると、1990年代半ば以降、円安傾向で推移し、直近2024年5月には1973年の変動相場制移行以来
最も低い水準となった。
・実質実効為替レートの長期的な円安傾向は、
①我が国の物価上昇率が貿易相手国よりも低く推移したことに加え、
②足下では、内外金利差の拡大による名目為替レートの円安が主因。
・国際収支も構造変化した。貿易収支は資源価格の高騰で赤字化しやすい構造となり、サービス収支も赤字傾向が継続して
いる。第1次所得収支は拡大し、大幅な黒字である一方、海外子会社の内部留保分など海外に再投資され、円として戻ら
ない部分も多い。
○ 国内企業物価・消費者物価ともに、緩やかに上昇している。
・消費者物価上昇率は、昨年11月以降、引き続き2%台で推移している。一方、家計の予想物価上昇率は、本年初め以降、
上昇傾向に転じている。
・サービス物価(消費者物価全体の約5割)は、前年比2%程度で推移しているが、12%を占める公共サービスや18%を占める
家賃の伸びはゼロ近傍で推移している。我が国では、これらの伸びが抑制されている一方、諸外国においては、公共
サービス、家賃ともに物価は上昇した。物価と賃金がともに上昇することがノルムとして定着していく中にあっては、
公共サービス価格においても、賃金引上げにつながるよう人件費の増加が適切に転嫁されることと、国民生活の安定と
のバランスが重要となってくる。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設は弱含んでいる。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、2月▲0.9%、3月▲4.4%、4月+15.8%、5月▲+7.5%。
・持家着工数は前月比で、2月+7.1%、3月▲1.7%、4月▲1.1%、5月▲4.5%。
・貸家着工数は前月比で、2月▲1.0、▲7.9%、4月+24.5%、5月▲13.5。
・分譲着工数は前月比で、2月▲9.3%、3月+0.5%、4月+15.1%、5月+3.3%。
○ 公共投資は、堅調に推移している。
・請負金額は前月比で、1月▲4.5%(出来高+2.6%)、2月+21.7%(出来高▲0.1%)、3月▲10.1%(出来高▲0.4%)、
4月+1.4%(出来高+8.1%)、5月▲3.6%(5月+0.6%)、6月▲3.1%。
雇用・賃金の動向
○ 2024年の春闘の賃上げ率は、7月の最終集計で、定昇込み5.10%、ベア3.56%と、33年ぶりの高水準となった。5月のフルタイム
労働者の所定内給与は、春闘賃上げの反映により、前年比+2.6%と1994年以来最高となった。産業別には、人手不足感の強い
建設、運輸等で特に高い伸びとなった。
○ 実質賃金の伸びを就業形態別にみると、パート時給は昨年半ばよりプラスに転化し、フルタイム労働者もマイナス幅が縮小した。
30人以上の事業所について、振れの大きい特別給与を除く定期給与の前年比をみると、26か月ぶりにプラスとなった。この夏の
民間企業のボーナスも過去最高額を更新し、高い伸びとなっている。公的部門への広がりも期待がもてる。
○ 職種別の有効求人倍率をみると、人手不足感の高い建設や介護等では3~4倍となる一方、事務職は0.4倍と低い。民間職業
紹介における転職求人倍率でも、事務・アシスタントは足下で0.5倍を下回る低い水準で推移している。さらに、今後は、 多くの
企業が、事務職の業務である定型的な書類作成やスケジュール調整等をAIに代替する意向となっている。
○ AIの導入は、職種や仕事内容によって影響が異なる。IMFの研究によると、英国では、管理職や専門職はAIからより多くの便益
を得る可能性がある一方、事務補助員はAIに代替される可能性が高い。我が国では、AIに代替される可能性がある事務従事者
のシェアが就業者の2割となっており、事務職等の労働者のリ・スキリングは喫緊の課題となっている。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、2月1.26、3月1.28、4月1.26、5月1.24(正社員は1.00)となった。
・完全失業率は、1月2.4、2月2.6、3月2.6、4月2.6、5月2.6となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
・企業の業況(全規模)は、製造・非製造業とも改善し、売上の7割を占める非製造業は、引き続きバブル期以降最高水準と
なった。
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
・設備投資意欲は引き続き旺盛となっている。23年度実績は前年度比+9%と高い伸びとなった後、24年度計画も6月時点で
10%増と堅調である。
○ 業況判断は、改善している。
・ 倒産件数は、増加がみられる。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2023年9月+9、12月+12、2024年3月+11、6月+13、9月+14。
「大企業・非製造業」は、2023年9月+27、12月+30、2024年3月+34、6月+33、9月+27。
「中小企業・製造業」は、2023年9月▲5、12月+1、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0。
「中小企業・非製造業」は、2023年9月+12、12月+14、2024年3月+13、6月+8、9月+8。
○ 生産は、このところ持ち直しの動きがみられる。
・鉱工業生産指数は前月比で、3月+4.4%、4月▲0.9%、5月+3.6%、6月(予測)▲4.8%、7月(予測)3.6%)。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、2月▲3.2%、3月+11.6%、4月+4.1%、5月▲6.8%。
・電子部品・デバイスは前月比で、2月+0.2%、3月+9.2%、4月▲1.3%、5月+2.3%。
・輸送機械は前月比で、12月+2.0%、2月▲11.5%、3月+12.6%、4月▲1.7%、5月+12.1%。
外需
○ 輸出・輸入おおむね横ばいとなっている。
・輸出数量は、約半分を占めるアジア向けのうち、韓国・台湾等向けは、世界的な半導体需要の回復により、情報関連財を
中心に持ち直し、ASEAN向けも下げ止まる一方で、景気が足踏み状態にある中国向けは軟調に推移し、全体として
横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、4か月ぶりに上昇した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、3月▲1.5、4月▲2.4、5月▲1.7、6月+1.3。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、4か月ぶりに上昇した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、3月▲1.8%、4月▲2.7、5月▲2.2、6月+1.6。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、足踏み状態が続くと見込まれる。さらに、不動産市場の停滞の継続や物価下落の継続による影響等に留意
する必要がある。
・中国の成長率は4.7%に低下。不動産市場の停滞が続く中で、政策効果が内需の好循環に繋がらず、景気は足踏み状態となって
いる。家計の可処分所得の伸びが低下し、消費は横ばい。構造的な需要不足を反映し、物価は5四半期連続で下落基調となり、
新規貸出は減少した。
・不動産開発の停滞により、地方政府の土地使用権譲渡収入は大幅に減少した。地方財政にも影響がみられる。
・中国の2024年4-6月期の実質GDP成長率は4.7%(前期比年率+2.8%)。
・消費はおおむね横ばいとなっている。
・生産は、持ち直している。
・財輸出は持ち直している。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きとなっている。
○ 韓国では、景気は持ち直している。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、物価上昇率の下げ止まりに
伴う影響による下振れリスクに留意する必要がある。
・アメリカでは景気拡大が継続。実質可処分所得の増加により、個人消費は増加傾向となっている。自動車販売台数は、
高金利が続く中でおおむね横ばいで推移した。コロナ禍後、政策効果等によりEV車が増加するも、24年以降は伸び悩み
がみられる。
・住宅着工件数は、住宅ローン金利が高止まる中で、このところ弱い動きがみられる。
・FRB(連邦準備制度理事会)の使命は物価の安定と雇用の最大化。物価上昇率は高止まりし、失業率は4%程度で推移
している。
・2024年1-3月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+1.4%。
○ 雇用者数は増加、失業率はやや上昇した。
・6月の失業率は4.1%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は緩やかに増加した。
○ 住宅着工数はこのところ弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。
○ 財輸出はおおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は持ち直しの動きがみられる。ドイツ・イギリスでは、景気は持ち直しの兆しがみられる。
・24年1-3月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.1% (イギリスは+2.9%、ドイツは+0.9%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは持ち直しの兆しがみられる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはこのところ上昇している。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに、このところ横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.8%(6月)、イギリス+3.6%(6月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは弱い動きとなっている。イギリスのサービス輸出は持ち直している。
○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。