月例経済報告

 

月例経済報告(R6.8.29)

基調判断

〈現状〉

・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の

効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米に

おける高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続に

伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク

となっている。また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場

の変動等の影響に十分注意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。

 先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場

 の停滞の継続に伴う 影響による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響

 を注視する必要がある。

 

GDPの動向

○ 我が国の名目GDPは、1973年度に初めて100兆円を超えて以降、約5年毎に約100兆円ずつ増加し、1992年度に500兆円

  を超えたが、その後約30年の間、500兆円台で推移してきた。20244-6月期に年率換算で史上初めて600兆円を超えた。

○ 4-6月期の実質GDPは前期比+0.8%(年率+3.1%)と、2四半期ぶりのプラス成長となった。消費や投資をはじめ内需が押上げ

  に寄与した。個人消費は、物価上昇の下でも増加し、5四半期ぶりに実質でもプラスとなった。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。。

20244-6月期の個人消費は、実質GDP成長率を0.5%pt押上げ。1-3月期に消費を大きく押し下げた自動車出荷停止事案の

 反動により耐久財が増加したことに加え、半耐久財・非耐久財が共にプラスに寄与。サービスは増加傾向の中で横ばい。

 特殊要因の大きい耐久財を除くと、1-3月期、4-6月期ともにプラスの伸びとなった。

・家計の可処分所得は、賃上げの反映や夏のボーナスによる実収入の増加に加え、定額減税の効果もあり、名目・実質とも

 大きく増加した。超過貯蓄の取り崩しはアメリカと比べ限定的となった。今後の消費の下支えに期待。

4月以降の高気温の影響もあって、家電販売ではエアコンの売上が好調、オリ・パラ需要もありテレビの売上も増加し、全体

 として持ち直しの動きとなっている。夏物衣料品の売上も堅調。大手アパレルチェーンは客単価・客数ともに増加傾向にある

・今年の夏は、全国的に平年を大きく上回る気温を観測した。猛暑日を記録した地点数は、過去5年で突出した多さだった昨年

 を上回る傾向。猛暑の影響について、景気ウォッチャーによると

  ①エアコンや日傘、アイスクリーム等の季節商材の消費が増加する一方、

  ②テーマパークやレストラン等で、外出控えにより客足が遠のくなど、プラス・マイナス両面あった。

・報道等によると、8月8日の南海トラフ地震臨時情報発表後、太平洋側を中心にイベント中止、旅館等の宿泊キャンセル等の

 影響がみられた一方、POSデータでみると、水や非常食といった防災関連財の売上高は急増した。

実質総消費動向指数は、前期比で、3月▲0.1%40.0%50.0%6+0.1%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、3+0.5%4月▲1.2%5月▲2.1%6+0.2%7+0.3%。 

  ・6月の実質総雇用者所得は、前期比で+2.9%となった。

 

物価

○ 消費者物価上昇率は、昨年11月以降、引き続き2%台で推移(1図)。8月以降「酷暑乗り切り緊急支援」による電気・ガス料金補助

  が開始され、9月から11月にかけて、消費者物価上昇率の押下げに寄与する見込み。

○ 輸入物価は、契約通貨ベースでは23年夏ごろから横ばいの一方、円ベースでは円安の進行により緩やかに上昇してきたが、足下

  で円安が是正されたこともあり、下落方向に向かうと見込まれる。

○ 購入頻度の高い品目の価格は、全体平均より高い上昇率となった。主食品では、米の価格は2023年末以降上昇し、7月は前年

  同月比+17%と上昇。新米流通による供給量増加を今後見込むが、食料支出割合の高い低所得層等への影響は注視する必要が

  ある。

○ 国内企業物価・消費者物価ともに、緩やかに上昇している。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設はおおむね横ばいとなっている。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、3月▲4.4%4+15.8%5月▲+7.5%6月▲5.9%

・持家着工数は前月比で、3月▲1.7%4月▲1.1%5月▲4.5%6+1.9%

・貸家着工数は前月比で、3月▲7.9%4+24.5%5月▲13.5%6月▲7.2%

・分譲着工数は前月比で、3+0.5%4+15.1%5+3.3%6月▲11.7%

   公共投資は、堅調に推移している。

・請負金額は前月比で、2+21.7%(出来高▲0.1%)、3月▲10.1%(出来高▲0.4%)、4+1.4%(出来高+8.1%)、

 5月▲3.6%5+0.6%)、6月▲3.1%(出来高▲0.6%)、7+2.1%             

 

雇用・賃金の動向

○ フルタイム労働者の現金給与総額(名目)は、2024年上半期は前年比2.7%27年ぶりの高い伸び率となった。実質賃金では、

  パート時給は前年比プラスが継続、フルタイム労働者も、春闘賃上げが反映され始めていることに加え、夏のボーナスが堅調で

  あったことから、6月は前年比でプラスとなった。振れの大きい特別給与(ボーナス等)を除く定期給与でも着実に持ち直している。

○ こうした結果、実質総雇用者所得は約3年ぶりに前年比プラスに転じた。

○ 特別給与(ボーナス等)の伸びを事業所規模別にみると、今年は中小規模の事業所の伸びが寄与した。

  産業別の所定内給与の伸びをみると、人手不足感の強い建設、運輸等で高い伸びが続くとともに、6月の診療報酬改定等に伴い、

  医療・福祉の賃金も伸び始めている。

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

・有効求人倍率は、31.2841.2651.2461.23(正社員は1.00)となった。

・完全失業率は、22.632.642.652.662.5となった。

 

投資・収益・業況

○ 企業収益は、総じてみれば改善している。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

民間企業の設備投資は、20231-3月期に名目で年率換算100兆円を超え、20244-6月期には106.3兆円と、1991

 (104.9兆円)以来33年ぶりに過去最高を更新した。実質でも持ち直しの動きが続く。

・設備投資の約2割を占める研究開発投資は、24年度計画が+8.7%と、引き続き高い意欲がある。一方、日本企業の研究

 開発投資は、米英と比較して製造業に偏っており、情報通信や専門・科学技術サービスなど非製造業で投資拡大の余地がある。

・研究開発は将来の成長の源泉である。日本の15歳時点での数学的・科学的リテラシーは男女ともにOECD加盟国中1位で

  あり、研究開発のポテンシャルは高い。能力の高い人材が存分に力を発揮するための教育や組織マネジメントが重要となって

  くる。

○ 業況判断は、改善している。

  倒産件数は、増加がみられる。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20239+912+1220243+116+139+14

  「大企業・非製造業」は、20239+2712+3020243+346+339+27

  「中小企業・製造業」は、20239月▲512+120243月▲16月▲19+0

  「中小企業・非製造業」は、20239+1212+1420243+136+129+8

 

生産

 生産は、このところ持ち直しの動きがみられる。

・鉱工業生産指数は前月比で、3+4.4%4月▲0.9%5+3.6%6月▲4.2%7月(予測)+6.5%8月(予測)0.7%)。

・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、3+11.6%4+4.1%5月▲6.8%6月▲9.0%

・電子部品・デバイスは前月比で、3+9.2%4月▲1.3%5+2.3%6月▲5.8%

   ・輸送機械は前月比で、3+12.6%4月▲1.7%5+12.1%6月▲6.6%

 

外需

○ 輸出・輸入おおむね横ばいとなっている。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気に敏感な職場で働く人々(景気ウォッチャー)に景気の状況を尋ねた「景気ウォッチャー調査(2024年7月調査:7月25

    ~31日)」によれば、①景気の現状判断(3か月前と比べた景気の方向性)、②景気の先行き判断(現状と比べた2~3か月先

    の景気の方向性)は2か月連続の上昇となっている。

    景気ウォッチャーのコメントでは、インバウンドなどで来客者数の増加に関するコメントがみられた。猛暑による季節商材の販売

    好調の一方、外出控えの影響もみられた。物価高に関するコメントは減ってはいるものの、引き続き多くみられた。

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2か月連続で上昇した

・現状・季節調整値DIは前月差で、4月▲2.45月▲1.76+1.37+0.5

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で上昇した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、4月▲2.75月▲2.26+1.67+0.4

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。

先行きについては、足踏み状態が続くと見込まれる。さらに、不動産市場の停滞の継続や物価下落の継続による影響等に留意

する必要がある。

・中国の20244-6月期の実質GDP成長率は4.7%(前期比年率+2.8%)。

・消費はおおむね横ばいとなっている。

・生産は、持ち直している。

・財輸出は持ち直している。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きに足踏みがみられる。

○ 韓国では、景気は持ち直している。

○ インドでは、景気は拡大している。

○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ タイでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、物価上昇率の下げ止まりに

   伴う影響による下振れリスクに留意する必要がある。

アメリカは個人消費を中心に景気は拡大している。

設備投資は、半導体法等に加えAI需要により情報通信機器が増加。消費者物価上昇率は2%台に低下した。ただし、食料品

等の身近な財・サービスの価格は、コロナ禍前と比較して高い状況。雇用者数は増勢が鈍化した。特に、ヘルスケア等を除く

民間部門の増加幅は縮小。局面が変化しつつある。

・長期的な予想物価上昇率の安定が、雇用の大幅減少なき物価上昇率の低下につながってきた可能性がある。物価と賃金の

  ノルムの定着が、安定的なマクロ経済環境の維持のためにも重要であることが示唆されている。

・いわゆるラストベルトと呼ばれる州(オハイオ・ペンシルバニア・ウィスコンシン・カリフォルニア・ミシガン)では、

  製造業従事者比率が高いが、ラストベルトの製造業の労働生産性は、全米平均と比較して伸びが低い傾向にある。 世帯所得

  中央値は、20世紀には全米平均を上回っていたが、現在は下回っている。また、ラストベルトでは、大卒未満の白人の人口

  割合、高齢化率が高い。

20244-6月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+2.8%

○ 雇用者数は増勢が鈍化した、失業率はやや上昇した。

7月の失業率は4.3%となった。

○ 設備投資は緩やかに増加している。

○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産は緩やかに増加した。

○ 住宅着工数はこのところ弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。

○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。

○ 財輸出はおおむね横ばいとなっている。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏では、景気は持ち直しの動きがみられる。ドイツ・イギリスでは、景気は持ち直しの動きがみられる。

・ユーロ圏経済及び英国経済は、実質GDP成長率が20244-6月期もプラスになり、景気は持ち直しの動きがある。

・消費者物価上昇率の低下を受け、欧州中央銀行は6月に、イングランド銀行は8月に利下げした。

244-6月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.2% (イギリスは+2.3%、ドイツは▲0.3%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは持ち直しの動きがみられる。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはこのところ上昇している。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏は、おおむね横ばいとなっている。イギリスは、このところ横ばいとなっている。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.8%7月)、イギリス+3.4%7月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは弱い動きとなっている。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加

    している。

○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。