月例経済報告(R6.9.18) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、 欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場の 停滞の継続に伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を 下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、中東地域を めぐる情勢、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要 がある。
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○ 世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場
の停滞の継続に伴う 影響による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の
影響を注視する必要がある。
日本経済の変化と今後の課題
○ 1990年代末以降、長期的に名目賃金・物価の上昇率はともにゼロ%前後で推移してきたが、コロナ禍からの世界経済の回復
や2022年の資源価格高騰を機に輸入物価が上昇。コストプッシュ型物価上昇に対し価格転嫁・賃上げを促進した結果、名目賃金
も上昇に転じ、デフレに陥る前の水準まで伸びが高まり、24年6月には物価上昇率を超え、実質賃金はプラスとなった。
こうした中、金融政策の主な手段は、他の多くの中央銀行と同様、短期金利に戻り、政策金利は0.25%程度になった。
○ この3年間で、名目GDPは56兆円増加し、史上初めて600兆円を超えた。設備投資も過去最高の106兆円、消費も増加となった。
○ GDPギャップは足下▲0.6%程度まで縮小した。一方、潜在成長率は0%台半ば。資本、労働、生産性の各側面から潜在成長率
を引き上げるとともに、価格や賃金をシグナルとした市場経済の本来のダイナミズムを取り戻すことが重要となる。
アフターコロナの世界経済
○ 主要先進国の実質GDPはコロナ禍前の水準を回復。アメリカは、個人消費や設備投資といった民需が景気拡大をけん引して
おり、日本は、いずれの指標でも中位程度の回復となっている。
○ 失業率は、各国ともにコロナ禍で上昇した後、現在はコロナ禍前とおおむね同水準に低下。日本の失業率はピークでも3.1%に
抑えられ、足下は2%台半ばと、先進国最低で推移した。
消費者物価上昇率は、多くの欧米諸国で一時9%前後まで高まったが、現在は2~3%程度まで低下した。日本は、ピーク時は
4.3%となった後、2023年秋以降2%台で推移している。
○ 欧米では、物価上昇率の高まりを受け、2022年以降、金融引締めが急速に進んだが、足下では物価上昇率の低下を受け、
ユーロ圏や英国で利下げが行われるなど潮目が変化しつつある。
個人消費の動向
○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
・実質総消費動向指数は、前期比で、4月0.0%、5月+0.2%、6月+0.2%、7月0.0%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、4月▲1.2%、5月▲2.1%、6月+0.2%、7月+0.3%、8月0.0%。
・7月の実質総雇用者所得は、前期比で▲3.4%となった。
物価
○ 消費者物価上昇率は、昨年11月以降、引き続き2%台で推移している。円安の是正もあり、円ベースの輸入物価はこのところ下落と
なっている。また、5%以上の物価上昇を予想する世帯の割合が縮小し、家計の予想物価上昇率の平均はやや低下した。
一方、直近では食料品の価格上昇がやや拡大。米、肉類、チョコレートなどの価格の上昇が寄与した。
○ サービスの物価上昇の分布は、コロナ禍前は0%近傍に集中し、価格据置きが続いていたが、足下で、より多くの品目でプラス。
○ 国内企業物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。消費者物価は、緩やかに上昇している。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、4月+15.8%、5月▲+7.6%、6月▲5.9%、7月+1.0%。
・持家着工数は前月比で、4月▲1.1%、5月▲4.6%、6月+2.0%、7月▲0.4%。
・貸家着工数は前月比で、4月+24.5%、5月▲13.5%、6月▲7.3%、7月+10.1%。
・分譲着工数は前月比で、4月+15.1%、5月+3.3%、6月▲11.7%、7月▲10.4%。
○ 公共投資は、堅調に推移している。
・請負金額は前月比で、4月+1.4%(出来高+8.1%)、5月▲3.6%(5月+0.6%)、6月▲3.1%(出来高▲0.6%)、7月+2.1%、
8月11.4%。
雇用・賃金の動向
○ フルタイム労働者の定期給与は春闘賃上げの反映が進み、高い伸びとなっている。特別給与(ボーナス等)は6-7月を通じて
高い伸びとなり、中小規模の事業所の伸びが寄与した。実質賃金では、パート時給は前年比プラスが継続。フルタイム労働者も
2か月連続でプラス。ボーナス等を除く定期給与でも着実に持ち直している。転職により年収が増加する者の割合も上昇している。
○ 最低賃金は、現行制度で最大の引上げ幅となり、全国加重平均で1,055円となった。本年10月以降、パート労働者の賃金上昇
につながることが期待される。最低賃金引上げへの対応として、企業の半数が価格転嫁を挙げる一方、設備投資による生産性
向上を挙げる中小企業は4分の1程度となっている。引き続き、価格転嫁対策とともに、生産性向上に向けた投資の後押し等が
重要となる。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、5月1.24、6月1.23、7月1.24(正社員は1.00)となった。
・完全失業率は、3月2.6、4月2.6、5月2.6、6月2.5、7月2.7となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
・ 2024年4-6月期の企業収益は、営業利益、経常利益ともに過去最高を更新。
・ 中小企業では、付加価値と人件費が同程度の伸びとなり、労働分配率はおおむね横ばい。
一方、大中堅企業では、付加価値の伸びが人件費の伸びを上回り、労働分配率は緩やかな低下傾向にある。
・過去四半世紀、国内設備投資の成果である固定資産の伸びはわずかで、海外直接投資や現預金が大きく増加。借入はほとんど
増えず、内部留保が拡大した。企業部門の好調さを賃上げや投資拡大に回すことにより、成長型経済の実現につなげる必要がある。
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
・設備投資を形態別にみると、持ち直しの動きが続く中で、ソフトウェアなど知的財産生産物への投資が継続的に増加した。業種別
でみると、足下では非製造業がけん引している。
・将来の成長の源泉となる研究開発投資のGDP比は、過去10年程度で、韓国、アメリカ、英国等で大きく上昇しているのに対し、
日本はほぼ横ばいとなっている。無形資産投資の促進を通じた生産性向上が課題である。
・民間建設工事の出来高が横ばい傾向の中、手持ち高は過去最高水準まで増加した。建設業の人手不足の影響もあって、受注工事
の工期が以前よりも長期化している。今後、高水準の手持ち工事高は、徐々に出来高に反映される見込みとなっている。
○ 業況判断は、改善している。
・ 倒産件数は、このところ増勢が鈍化している。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2023年9月+9、12月+12、2024年3月+11、6月+13、9月+14。
「大企業・非製造業」は、2023年9月+27、12月+30、2024年3月+34、6月+33、9月+27。
「中小企業・製造業」は、2023年9月▲5、12月+1、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0。
「中小企業・非製造業」は、2023年9月+12、12月+14、2024年3月+13、6月+12、9月+8。
○ 生産は、このところ持ち直しの動きがみられる。
・鉱工業生産指数は前月比で、4月▲0.9%、5月+3.6%、6月▲4.2%、7月+3.1%、8月(予測)+2.2%、9月(予測)▲3.3%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、4月+4.1%、5月▲6.8%、6月▲9.0%、7月+7.0%。
・電子部品・デバイスは前月比で、4月▲1.3%、5月+2.3%、6月▲5.8%、7月+9.7%。
・輸送機械は前月比で、3月+12.6%、4月▲1.7%、5月+12.1%、6月▲6.6%、7月+2.6%。
外需
○ 輸出・輸入おおむね横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、3か月連続で上昇した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、5月▲1.7、6月+1.3、7月+0.5、8月+1.5。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3か月連続で上昇した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、5月▲2.2、6月+1.6、7月+0.4、8月+2.0。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、足踏み状態が続くと見込まれる。さらに、不動産市場の停滞の継続や物価下落の継続による影響等に留意
する必要がある。
・中国の2024年4-6月期の実質GDP成長率は4.7%(前期比年率+2.8%)。
・消費はおおむね横ばいとなっている。
・生産は、持ち直している。
・財輸出は持ち直している。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きに足踏みがみられる。
○ 韓国では、景気は持ち直している。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、物価上昇率の下げ止まりに
伴う影響による下振れリスクに留意する必要がある。
・アメリカは個人消費を中心に景気は拡大。失業率が4%台で推移する中、雇用者数は増勢が鈍化した。
・消費者物価上昇率は、財価格の低下を受け、2%台に低下。住居費を中心にサービス価格は底堅く推移した。ただし、家賃
や賃金の伸びの鈍化を受け、今後、サービス価格の伸びも鈍化する可能性。
・ 中古住宅価格は上昇が継続しており、住宅購入の際の家計の負担は増している。
・ 2024年4-6月期のGDP成長率(2次推計値)は、前期比年率+3.0%。
○ 雇用者数は増勢が鈍化した、失業率はやや上昇した。
・8月の失業率は4.2%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。
○ 生産は緩やかに増加した。
○ 住宅着工数はこのところ弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。
○ 財輸出はおおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態にある。
・ユーロ圏経済は、実質GDPの回復にばらつきがある。ドイツ経済は足踏み状態となっている。背景に、2022年以降の輸出の
停滞と、政策 の先行き不透明感による投資マインドの弱さと高い金利水準の継続による設備投資の弱い動きがある。
・ 州別の一人当たりGDPは、旧西ドイツ10州では、旧東ドイツ5州よりも高い。
・24年4-6月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+0.8% (イギリスは+2.3%、ドイツは▲0.3%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは持ち直しの動きがみられる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏は、横ばいとなっている。イギリスは、おおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.8%(7月)、イギリス+3.4%(7月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは弱い動きとなっている。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加
している。
○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。