月例経済報告(R6.10.29) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米に おける高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続に 伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク となっている。また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本 市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。
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○ 米国では、個人消費を中心に景気は拡大。
雇用者数は緩やかに増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。
物価上昇率は 低下傾向にあり、物価の安定と雇用の最大化を使命とするFRBは、9月に0.5%ptの利下げを実施した。
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態。
欧州では、実質GDPの回復にばらつきがある。
ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。
○ 米国、中国は成長が鈍化するものの、世界経済全体としては、3%台の成長の見込みとなっている。 ただし、欧米の高い
金利水準の継続、中国の不動産市場の停滞の継続、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響による下振れ
リスクに留意が必要である。
GDP等の動向
○ 我が国の名目GDPは、1992年度に500兆円を超えてから、デフレを始め様々な困難に見舞われたこともあり、おおむね
500兆円台で推移している。2024年4-6月期には、名目GDPが史上初めて年率換算で600兆円を超えた。実質GDPは、
消費や投資を始め内需が押上げに寄与し、2四半期ぶりのプラス成長となった。
○ 設備投資は、2024年4-6月期には名目年率106兆円と、1991年以来33年ぶりに過去最高を更新。実質でも持ち直しの
動きが続く。GDPの54%を占める個人消費は、名目では過去最高となっているが、実質は、賃金の伸びが物価上昇に追い
つかなかったこともあって、力強さを欠いてきた。
○ 経済の成長力を示す潜在成長率は0%台半ばとなっている。資本、労働、生産性の各側面からの潜在成長率の向上が課題
である。
デフレ脱却の定義と判断
○ デフレ脱却とは、「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」。現在は、物価が
持続的に下落するデフレの状態にない。一方、デフレに後戻りしないという状況を把握するためには、消費者物価やGDP
デフレーター等の物価の基調に加え、その背景として、GDPギャップ、単位労働費用、賃金上昇、企業の価格転嫁の動向、
物価上昇の広がり、予想物価上昇率など、幅広い指標を総合的に確認する必要がある。
○ 四半世紀にわたり続いた、賃金も物価も据え置きで動かないという凍りついた状況が変化し、賃金と物価の好循環が回り
始め、デフレ脱却に向けた歩みは着実に進んでいる。
○ GDPギャップ(国の経済全体の総需要と供給力の乖離)は4-6月期に▲0.6%程度まで縮小した。単位労働費用は春闘賃上げや
夏季ボーナスもありプラスとなった。
○ 名目賃金上昇率を詳細にみると、パートタイム労働者の時給は、2023年後半から上昇幅が拡大している。フルタイム労働者
の所定内給与も2024年春以降、上昇率が高まっている。ただし、5~29人の比較的規模の小さい事業所で上昇に遅れがみら
れる。
○ 仕入価格上昇に対し販売価格も上昇し、過去30年と異なり価格転嫁が進展した。1年前と比べて価格が上昇した品目は
7~8割と1980年代の姿に近づく。企業の中期的な予想物価上昇率は上昇し、2022年以降2%程度で安定的に推移している。
個人消費の動向
○ 可処分所得が春闘の賃上げ反映や堅調な夏季ボーナス、定額減税の効果等もあって増加する中、個人消費は持ち直しの
動きがみられるが、緩やかな伸びにとどまり、結果として貯蓄率は2024年に入り上昇した。
○ 新車販売は一部メーカーの出荷停止事案による落ち込みから持ち直し、外食は売上・客数ともに緩やかな増加が続く。
○ 世帯別に貯蓄率をみると、勤労世帯ではコロナ禍前に比べて高止まりとなっている。一方、高齢無職世帯ではコロナ禍前に
戻り、低所得世帯ではコロナ禍前の水準を下回って低下が進む。物価上昇が進む中で、貯蓄を取り崩して必要な消費に回して
いる可能性が考えられる。
○ 消費者マインドは、緩やかな改善傾向はみられるものの、食料品価格の上昇もあって、改善に足踏みがみられる。
○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
・実質総消費動向指数は、前期比で、5月+0.2%、6月+0.2%、7月+0.1%、8月▲0.0%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、5月▲2.1%、6月+0.2%、7月+0.3%、8月0.0%、9月+0.2%。
・8月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.5%となった。
物価
○ 消費者物価上昇率は、昨年11月以降おおむね2%台で推移。9月は、酷暑乗り切り支援の効果もあり、電気・ガス代の上昇幅が
縮小した。ただし、夏以降、引き続き食料品の価格上昇が拡大している。米のほか、飲料やコーヒー、肉類等で上昇幅が拡大した。
○ 基礎的支出(食料品や光熱費等)に分類される財・サービスの物価上昇率が、選択的支出(教養娯楽費等)に分類される財・
サービスの物価上昇率を再び上回るようになっており、基礎的支出が相対的に多い低所得者への影響に留意が必要である。
○ 円ベースの輸入物価は、7月半ばから9月にかけて円安が是正されたこともあり、このところ下落している。一方、10月以降、為替が
再び円安方向に動いたこともあり、輸入物価は下げ止まる可能性がある。
○ 国内企業物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。消費者物価は、緩やかに上昇している。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、5月▲+7.6%、6月▲5.9%、7月+1.0%、8月+0.5%。
・持家着工数は前月比で、5月▲4.6%、6月+2.0%、7月▲0.4%、8月+6.6%。
・貸家着工数は前月比で、5月▲13.5%、6月▲7.3%、7月+10.1%、8月▲7.1%。
・分譲着工数は前月比で、4月+15.1%、5月+3.3%、6月▲11.7%、7月▲10.4%、8月+3.9%。
○ 公共投資は、堅調に推移している。
・請負金額は前月比で、4月+1.4%(出来高+8.1%)、5月▲3.6%(5月+0.6%)、6月▲3.1%(出来高▲0.6%)、7月+2.1%
(出来高+0.7%)、8月▲11.4%(出来高▲1.1%)、9月+6.4%。
雇用・賃金の動向
○ 1990年代末以降、長期的にゼロ%前後で推移してきた名目賃金・物価の上昇率は、2022年以降の輸入物価の上昇と、それに
対応した価格転嫁・賃上げ促進の結果もあって、いずれもデフレに陥る以前の90年代の水準の伸びとなった。
○ 日本の労働者の約3割を占めるパートタイム労働者の賃金は相対的に低く、パートタイム労働者比率の上昇は、全労働者の平均
の名目賃金を押し下げている。就業形態別に実質賃金を見ると、パート時給は、昨年半ばより前年比プラスが継続しており、フル
タイム労働者は、現金給与総額では6月以降プラスが続き、ボーナスを除く定期給与でもマイナス幅が縮小傾向にある。
○ 10月以降各都道府県で順次最低賃金引上げが開始し、9月末以降、パート労働者の募集賃金(時給)は一段と増加した。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、6月1.23、7月1.24、8月1.23(正社員は1.01)となった。
・完全失業率は、4月2.6、5月2.6、6月2.5、7月2.7、8月2.5となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
・企業の業況感は、製造・非製造業とも改善。売上の7割を占める非製造業は、1990年代初めのバブル期以降最高水準。
・企業の設備投資意欲は引き続き旺盛。2024年度の設備投資計画は、9月時点で前年度比10%増と堅調である。
・企業の人手不足感は引き続き高い水準にあり、特に非製造業ではバブル期以来の歴史的な高さとなっている。人手不足が成長
の制約とならないよう、省力化投資等が課題である。
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
○ 業況判断は、改善している。
・ 倒産件数は、このところ増勢が鈍化している。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2023年12月+12、2024年3月+11、6月+13、9月+13、12月+14。
「大企業・非製造業」は、2023年12月+30、2024年3月+34、6月+33、9月+34、12月+28。
「中小企業・製造業」は、2023年12月+1、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0、12月+0。
「中小企業・非製造業」は、2023年9月12月+14、2024年3月+13、6月+12、9月+14、12月+11。
○ 生産は、このところ横ばいとなっている。
・鉱工業生産指数は前月比で、5月+3.6%、6月▲4.2%、7月+3.1%、8月▲3.3%、9月(予測)+2.0%、10月(予測)+6.1%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比、5月▲6.8%、6月▲9.0%、7月+7.0%、8月▲4.6%。
・電子部品・デバイスは前月比で、5月+2.3%、6月▲5.8%、7月+9.7%、8月+1.9%。
・輸送機械は前月比で、5月+12.1%、6月▲6.6%、7月+2.6%、8月▲8.1%。
外需
○ 輸出・輸入おおむね横ばいとなっている。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、4か月ぶりに下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、6月+1.3、7月+0.5、8月+1.5、9月▲1.2。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、4か月ぶりに下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、6月+1.6、7月+0.4、8月+2.0、9月▲0.6。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の停滞の
継続や物価下落の継続による影響等に留意する必要がある。
・中国の2024年7-9月期の実質GDP成長率は4.6%。
・消費はおおむね横ばいとなっている。
・生産は、持ち直している。
・財輸出は持ち直している。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きに足踏みがみられる。
○ 韓国では、景気は持ち直している。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、高い金利水準の継続に伴う
影響による下振れリスクに留意する必要がある。
・ 2024年4-6月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+3.0%。
○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・9月の失業率は4.1%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。
○ 生産はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数は弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。
○ 財輸出はゆるやかに増加した。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態に
ある。イギリスでは、持ち直している。
・24年4-6月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+0.8% (イギリスは+1.8%、ドイツは▲0.3%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はおおむね横ばいとなっている。イギリスは持ち直している。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏は、横ばいとなっている。イギリスは、おおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.7%(9月)、イギリス+3.2%(9月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはこのところ持ち直している。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加している。
○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。