月例経済報告(R6.11.26) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米 における高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続 に伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク となっている。また、物価上昇、アメリカの今後の政策動向、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要が ある。
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○ 世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場
の停滞の継続に伴う影響による下振れリスク、アメリカの今後の政策動向による影響に留意する必要がある。また、中東地域を
めぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。
GDP等の動向
○ 2024年7-9月期(1次速報)の実質国内総生産は、前期比+0.2%(年率+0.9%)となった。
・我が国の名目GDPは、2024年4-6月期に史上初めて年率換算で600兆円を超え、7-9月期には更に過去最高を更新した。
実質GDPは、個人消費を中心に2四半期連続のプラス成長となった。
○ 個人消費(GDPの54%)は、実質では、所得の伸びが物価上昇に追いつかない中で力強さを欠いてきたが、足下では自動車
の回復や、8月の台風・地震の影響による飲食料品の増加等もあり、2四半期連続の増加となった。
輸出(GDPの22%)は、中国景気の足踏み状態を反映して、中国向けの財輸出が減少するなど、緩やかな伸びにとどまる。
個人消費の動向
○ 家計の可処分所得は、33年ぶりの賃上げ反映や堅調な夏のボーナス、定額減税もあって、名実ともに増加する中、個人消費
も持ち直しの動きが継続している。
○ 形態別に見ると、サービスは、台風・地震の影響により宿泊が減少したこともあって微増の一方、耐久財や非耐久財が増加
した。自動車は、7-9月期にかけて年初の認証不正問題の影響からの回復がみられたこと、非耐久財は、8月の台風・地震等
に伴うパックご飯や飲料等の防災関連財の備蓄需要という一時的要因が影響したことには留意が必要である。
○ 平均消費性向をみると、米国では、高齢層、現役層ともにおおむねコロナ禍前の水準に戻る一方、日本では、現役層で切り
下がった状況が続く。物価上昇を上回る所得増を定着させ、家計がそれを前提として消費できる環境を整えることが重要である。
○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
・実質総消費動向指数は、前期比で、6月+0.2%、7月+0.1%、8月+0.1%、9月+0.1%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、6月+0.2%、7月+0.3%、8月0.0%、9月+0.2%、10月▲0.7%。
・9月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.7%となった。
物価
○ 消費者物価上昇率は、酷暑乗り切り支援もあって、おおむね2%台半ばで推移している。一方、食料品は、POSデータ(お客さまと金銭
のやりとりをした時点での販売記録データ)によると、米のほか、チョコレート、ハム・ベーコン、清涼飲料等を中心に、物価上昇幅が拡大した。
○ 物流費は、いわゆる「物流の2024年問題」の影響もあり足下で上昇傾向となっている。食品メーカーの価格引上げの背景をみると、
物流費が原材料費に次ぐ要因に挙げられるなど、物流費の価格転嫁が進展した。なお、物流費が10%上昇した場合の波及効果を
試算すると、物価全体を0.2%程度押上げている。
○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。消費者物価は、このところ上昇している。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、6月▲5.9%、7月+1.0%、8月+0.5%、9月+3.0%。
・持家着工数は前月比で、6月+2.0%、7月▲0.4%、8月+6.6%、9月▲4.1%。
・貸家着工数は前月比で、6月▲7.3%、7月+10.1%、8月▲7.1%、9月+8.0%。
・分譲着工数は前月比で、6月▲11.7%、7月▲10.4%、8月+3.9%、9月+7.7%。
○ 公共投資は、底堅く推移している。
・請負金額は前月比で、5月▲3.6%(出来高5月+0.6%)、6月▲3.1%(出来高▲0.6%)、7月+2.1%(出来高+0.7%)、8月▲11.4%
(出来高▲1.1%)、9月+6.4%(出来高▲0.7%)、10月▲5.7%。
雇用・賃金の動向
○ 雇用者全体の所得を示す総雇用者所得は、実質で見ても2四半期連続で前年比プラスとなり、緩やかに持ち直している。
○ 就業形態別の実質賃金のうち、パート時給は昨年半ばより前年比プラスが継続している。フルタイム労働者は、現金給与総額
では6月以降プラス傾向が続き、ボーナスを除く定期給与ではマイナス幅が縮小傾向となっている。
○ 一方、フルタイム労働者の所定内給与を事業所規模別にみると、5~29人の事業所では賃金上昇に遅れがみられる。
○ 夏のボーナスでは、比較的規模の小さい事業所で、以前よりも多くの事業者が支給するようになり、全体の押上げに寄与した。
冬のボーナスも、昨年からさらに増加する見込みとなっている。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、7月1.24、8月1.23、9月1.24(正社員は1.01)となった。
・完全失業率は、5月2.6、6月2.5、7月2.7、8月2.5、9月2.4となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じてみれば改善している。
・7-9月期の企業収益は、営業利益では総じて改善した。経常利益は、円安是正に伴う為替差損の影響で製造業を中心に減少
した。
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
○ 業況判断は、改善している。
・ 倒産件数は、このところ増勢が鈍化している。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2023年12月+12、2024年3月+11、6月+13、9月+13、12月+14。
「大企業・非製造業」は、2023年12月+30、2024年3月+34、6月+33、9月+34、12月+28。
「中小企業・製造業」は、2023年12月+1、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0、12月+0。
「中小企業・非製造業」は、2023年12月+14、2024年3月+13、6月+12、9月+14、12月+11。
○ 生産は、このところ横ばいとなっている。
・鉱工業生産指数は前月比で、6月▲4.2%、7月+3.1%、8月▲3.3%、9月+1.6%、10月(予測)+8.3%、11月(予測)▲3.7%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比、6月▲9.0%、7月+7.0%、8月▲4.6%、9月▲1.7%。
・電子部品・デバイスは前月比で、6月▲5.8%、7月+9.7%、8月+1.9%、9月+0.5%。
・輸送機械は前月比で、6月▲6.6%、7月+2.6%、8月▲8.1%、9月+5.8%。
外需
○ 輸出は、おおむね横ばいとなっている。輸入は、このところ持ち直しの動きがみられる。
・輸出企業の採算為替レートは、2024年1月時点で1ドル120円台。実勢レートはこれよりも円安ドル高で推移している。
・財の輸出は全体として横ばいで推移している。中国景気の足踏みが続く中、輸出の2割弱を占める対中輸出は引き続き
減少傾向となっている。一方、それ以外のアジア向け輸出は持ち直すなど、引き続き地域ごとにばらつきがみられる。
・7-9月期のインバウンド消費は、これまでの反動もあって減少し、外需を押し下げたが、10月の訪日外客数は331万人と、
単月では過去最高。旅行者一人当たりの消費額を含め、今後の動向を注視する必要がある。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、7月+0.5、8月+1.5、9月▲1.2、10月▲0.3。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、7月+0.4、8月+2.0、9月▲0.6、10月▲1.4。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の
停滞の継続や物価下落の継続、今後の通商関係の動向による影響等に留意する必要がある。
・中国の2024年7-9月期の実質GDP成長率は4.6%。
・消費はおおむね横ばいとなっている。足下では7月末に強化が図られた買換え支援策の効果が発現し、自動車や家電
販売がプラスに転換した。
・生産は、持ち直している。
・財輸出は持ち直している。
ASEANや中東、中南米等への財の輸出先の多角化が進んでいる。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
住宅価格の下落が 継続するなど不動産市場が停滞する中、これまで地方政府の主要財源となっていた土地使用権譲渡
収入は大きく減少している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。内需の弱さもあり、GDPデフレーターが6四半期連続でマイナスとなる
など物価下落が継続している。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。
○ 韓国では、景気は持ち直している。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は弱含んでいる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、高い金利水準の継続に伴う
影響による下振れリスク、今後の政策動向による影響に留意する必要がある。
・トランプ次期大統領は、大統領選において、中国や全世界からの輸入品に対する関税の大幅な引上げについて言及した。
・第一次トランプ政権時には、2018年7月以降累次にわたり、米中間で相互に関税を引上げている。2018年後半以降、米国・
中国ともに輸出は頭打ちとなった。また、中国の対米輸出停滞は、日本の輸出の下押しにも影響する。
・IMFは、米・中・ユーロ圏の間で相互に10%、米国と他国との間でも相互に10%の関税を仮定し、設備投資の下押しを
含めた場合、2026年にかけて、米国のGDPを1%、中国のGDPを0.5%程度下押しすると試算している。
・2024年7-9月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+2.8%。
○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・10月の失業率は4.1%となった。
○ 消費者物価上昇率は、サービスは底堅く推移する一方で、財を中心に低下傾向となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加、自動車販売台数は持ち直している。
○ 生産はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数は弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。
・物価の安定と雇用の最大化を使命とするFRBは、11月に0.25%ptの利下げを実施。
○ 財輸出はゆるやかに増加した。
・2018年後半以降、中国からの財輸入は頭打ちで推移している。コロナ禍以降、ASEAN・メキシコからの財輸入は増加
傾向にある。米国の貿易赤字の対GDP比は、2008年の世界金融危機後、おおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態にある。
イギリスでは、持ち直している。
・24年7-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.5% (イギリスは+0.6%、ドイツは+0.4%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はこのところ持ち直しの動きがみられる。イギリスは持ち直している。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに、おおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.7%(10月)、イギリス+3.3%(10月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはこのところ持ち直している。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加しているが、
このところ一服感がみられる。
○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。