月例経済報告(R6.12.20) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米に おける高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続に 伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク となっている。また、物価上昇、アメリカの今後の政策動向、中東 地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要 がある。
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○ 世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場
の停滞の継続に伴う影響による下振れリスク、アメリカの今後の政策動向による影響に留意する必要がある。また、中東地域を
めぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。
GDP等の動向
○ 2024年7-9月期(2次速報)の実質国内総生産は、前期比+0.3%(年率+1.2%)となった。
個人消費の動向
○ 2024年7-9月期のGDP2次速報においても、消費は2四半期連続で増加し、持ち直しの動きがみられる。サービスが緩やか
に増加したほか、耐久財(自動車の認証不正問題からの回復等)や非耐久財(防災関連財の備蓄需要等)が増加に寄与した。
○ OECD(経済協力開発機構)は、食料やエネルギーの価格上昇は、消費者マインドを通じて消費を下押しすると指摘している。
食料・エネルギー価格の伸びが所得の伸びを上回ると消費の伸びは低い傾向となる。安定的な物価上昇と、これを持続的に
上回る所得の伸びの実現が重要となる。
○ 旅行は、所得環境の改善もあって、国内旅行の日本人延べ宿泊数にこのところ持ち直しの動き。今回の年末年始は9連休と
いう日並びの効果もあり、交通機関(鉄道)の予約状況も堅調に推移している。地域別に日本人宿泊者数を見ると、ばらつきが
あるものの、総じて改善傾向にある。
○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、持ち直しの動きがみられる。
・実質総消費動向指数は、前期比で、7月+0.1%、8月+0.2%、9月+0.2%、10月▲0.1%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、7月+0.3%、8月0.0%、9月+0.2%、10月▲0.7%、11月+0.2%。
・10月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.6%となった。
物価
○ 消費者物価上昇率は、昨年11月以降、おおむね2%台で推移している。足下では、冬物野菜を中心に生鮮野菜の価格が、夏場
の高気温等の影響による生育不良から平年を大きく上回っている。
○ サービス価格の上昇率の分布をみると、過去は0%近傍に集中していたが、2023年以降は、賃金上昇の販売価格への転嫁が
進む中で、BtoB(企業向け販売)、BtoC(消費者向け販売)ともにより多くの品目でプラス領域に移行している。
○ 価格転嫁ができている中小企業ほど賃上げ率も高い。賃金と物価の好循環に向け、引き続き価格転嫁の推進が重要となる。
○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。消費者物価は、このところ上昇している。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、7月+1.0%、8月+0.5%、9月+3.0%、10月▲2.7%。
・持家着工数は前月比で、7月▲0.4%、8月+6.6%、9月▲4.1%、10月+1.8%。
・貸家着工数は前月比で、7月+10.1%、8月▲7.1%、9月+8.0%、10月▲10.8%。
・分譲着工数は前月比で、7月▲10.4%、8月+3.9%、9月+7.7%、10月+2.5%。
○ 公共投資は、底堅く推移している。
・請負金額は前月比で、6月▲3.1%(出来高▲0.6%)、7月+2.1%(出来高+0.7%)、8月▲11.4%(出来高▲1.1%)、9月+6.4%、
(出来高▲0.7%)、10月▲5.7%(出来高+0.6%)、11月+13.1%。
雇用・賃金の動向
○ 1人当たりの名目賃金は、9月以降夏のボーナスの押上げ効果がはく落する中でも、所定内給与の伸びが着実に高まり、2%台
半ばで推移した。ただし、事業所規模別にフルタイム労働者の所定内給与の伸びを見ると、5~29人の事業所では上昇に遅れ
がある。
就業形態別の実質賃金を見ると、パート時給は昨年半ばから前年比プラスが継続、フルタイム労働者の定期給与は2年7か月
ぶりに前年比プラスとなった。
○ 労働力の確保・定着、雇用の維持を重視して賃金を改定する企業の割合は大きく増加した。物価動向を重視する企業も増加した。
○ 10月以降各都道府県で順次最低賃金が引き上げられ、9月末以降、パート労働者の募集賃金(時給)は一段と増加した。
○ 就業率(就業者/15歳以上人口)は、女性を中心に緩やかに上昇した。
女性の雇用者数を見ると、足下では、非正規雇用者 は横ばいの一方、正規雇用者が着実に増加した。
○ 女性の正規雇用者は、医療・福祉、情報通信業のほか、製造業や教育・学習支援業を含め幅広い業種で増加傾向となった。
○ 女性の非正規雇用者のうち世帯主は約300万人、約2割を占める。高齢化の中で女性単身世帯を中心に増加した。2人以上世帯
の世帯主の女性の非正規雇用者の6割弱は54歳以下となっている。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、8月1.23、9月1.24、10月1.25(正社員は1.02)となった。
・完全失業率は、6月2.5、7月2.7、8月2.5、9月2.4、10月2.5となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じて改善しているが、そのテンポは緩やかになっている。
・一方、企業の保有する現預金は、2000年代後半以降増加傾向となっている。企業の資金が賃上げや投資拡大に回ることに
より成長型経済の実現につなげることが重要となる。
・売上の7割を占める非製造業は、バブル期以降の最高水準を維持。3割を占める製造業では、半導体製造装置を含む生産用
機械等を中心に、前回9月調査から改善している。
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
・設備投資は持ち直しの動きが続く中で、ソフトウェアや研究開発投資など知的財産生産物への投資が継続的に増加した。
ただし、日本の官民の設備投資に占める知的財産投資のシェアは、ドイツと同様、他の主要先進国に比べて低位である。
無形資 産投資を通じた付加価値や生産性の向上が課題である。
○ 業況判断は、改善している。
・ 倒産件数は、このところ増勢が鈍化している。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2024年3月+11、6月+13、9月+13、12月+14。2025年3月+13。
「大企業・非製造業」は、2024年3月+34、6月+33、9月+34、12月+33。2025年3月+28。
「中小企業・製造業」は、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0、12月+1。2025年3月+0。
「中小企業・非製造業」は、2024年3月+13、6月+12、9月+14、12月+16。2025年3月+8。
○ 生産は、横ばいとなっている。
・製造業の生産は、全体として横ばいである。23年末以降、生産をけん引してきた電子部品・デバイスは、このところ頭打ち
となっている。
日本の半導体生産は、世界的な需要の好調が続くAIやサーバー向けよりも、家電や自動車、産業機器向けが主力であり、
このところPCやスマートフォンの需要に一服がみられることがその背景にある。
・鉱工業生産指数は前月比で、7月+3.1%、8月▲3.3%、9月+1.6%、10月+2.8%、11月(予測)▲2.2%、12月(予測)▲0.5%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比、7月+7.0%、8月▲4.6%、9月▲1.7%、10月+21.6%。
・電子部品・デバイスは前月比で、7月+9.7%、8月+1.9%、9月+0.5%、10月▲8.6%。
・輸送機械は前月比で、7月+2.6%、8月▲8.1%、9月+5.8%、10月+3.1%。
外需
○ 輸出は、おおむね横ばいとなっている。輸入は、このところ持ち直しの動きがみられる。
・財輸出は横ばい傾向。地域別にばらつきもみられる。
世界的にサービス貿易が拡大する中、主要先進国では輸出に占める財の比率は低下傾向にあるが、日本はドイツと並び、
8割前後と相対的に高く、貿易摩擦の影響を受けやすい経済構造となっていることに留意が必要である。
・米国のトランプ次期大統領は、メキシコやカナダへの25%の関税に言及。日本からこれら地域への輸出シェアは約3%であるが、
自動車の現地生産が活発なこともあり、自動車部品や鉄鋼等が多く、近年、金属や電気機械も対外投資が拡大している。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、3か月ぶりに上昇した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、8月+1.5、9月▲1.2、10月▲0.3、11月+1.9。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3か月ぶりに上昇した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、8月+2.0、9月▲0.6、10月▲1.4、11月+1.1。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の停滞
の継続や物価下落の継続、今後の通商関係の動向による影響等に留意する必要がある。
・住宅価格の下落など不動産市場の停滞が継続している。
・中国の2024年7-9月期の実質GDP成長率は3.6%。
・消費はおおむね横ばいとなっている。
・生産は、持ち直している。
・財輸出は持ち直している。
輸出価格が低下する中で、輸出数量が増加した。石油製品、自動車等では輸出数量が増加しているものの、輸出金額は減少
した。中国当局は、通商関係等今後の外部環境の変化が見込まれる中、内需の全面的拡大に向け、財政・金融政策スタンス
をより景気刺激的な方向に転換する。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。
○ 韓国では、景気は持ち直している。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は弱含んでいる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、高い金利水準の継続に伴う影響
による下振れリスク、今後の政策動向による影響に留意する必要がある。
・米国では、個人消費を中心に景気は拡大している。
・2024年7-9月期のGDP成長率(2次推計値)は、前期比年率+2.8%。
○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・11月の失業率は4.2%となった。
○ 設備投資は緩やかに増加している。
○ 消費は増加、自動車販売台数は持ち直している。
・ 自動車ローン金利が高い水準にある中でも、自動車販売台数は持ち直している。
将来の価格上昇を見越して、現在を購入の好機と捉える消費者の割合が上昇していることが背景にある可能性がある。
○ 生産はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数は弱い動き・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。
・物価上昇率は財を中心に低下してきたが、足下では下げ止まり、おおむね横ばい。FRBは9月、11月、12月と3回利下げ。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態にある。
イギリスでは、持ち直している。
・一方で、フランス経済は、パリオリンピック・パラリンピック競技大会の影響から、2024年7-9月期は消費が堅調に推移した。
・EUでは、コロナ禍で一時的に適用を停止していた財政規律が復活。フランスは、財政規律の維持が課題となっている
・24年7-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.7% (イギリスは+0.6%、ドイツは+0.4%)。
○ 個人消費は、ユーロ圏はこのところ持ち直しの動きがみられる。イギリスは持ち直している。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに、おおむね横ばいとなっている。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.8%(11月)、イギリス+3.6%(11月)。
消費者物価が2%程度で推移していることを受け、欧州中央銀行(ECB)は2024年6月以降、9月、10月、12月と4回利下げ。
イングランド銀行(BOE)は同年8月、11月と2回利下げした。
○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはこのところ持ち直している。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加しているが、
このところ一服感がみられる。
○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはおおむね横ばいとなっている。