月例経済報告

 

月例経済報告(R7.1.23)

基調判断

〈現状〉

・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果

もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米に

 おける高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続に 

 伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスク

 となっている。

 また、物価上昇、アメリカの政策動向、中東地域をめぐる情勢、

 金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。

 先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場の

 停滞の継続に伴う影響による下振れリスク、アメリカの政策動向による影響に留意する必要がある。また、中東地域をめぐる情勢、

 金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。

 

GDP等の動向

20247-9月期(2次速報)の実質国内総生産は、前期比+0.3%(年率+1.2%)となった。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、持ち直しの動きがみられる。

所得の伸びほどには増加せず、結果として貯蓄率はコロナ禍前を上回る水準で推移している。食料品等身近な物価の上昇も

 あって、「暮らし向き」の見通しをはじめ消費者マインドは改善に足踏みがみられる。

  ・12月の気温低下の影響もあり、冬物衣料品の売上は堅調。大手アパレルチェーンは客数・客単価ともに増加した。

  ・一世帯あたりの平均可処分所得は長期的に緩やかな減少傾向にあるが、高齢化に加え、単身世帯の増加に伴う世帯人数減少

   の影響が大きい。世帯類型別に世帯員の生活水準を示す等価可処分所得を見ると、総じて2010年代半ば以降緩やかな増加

   傾向にある。

実質総消費動向指数は、前期比で、8+0.2%9+0.2%10月▲0.1%11月▲0.0%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、80.0%9+0.2%10月▲0.7%11+0.2%12月▲0.2%。 

  ・11月の実質総雇用者所得は、前期比で▲0.3%となった。

 

物価

 

○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。消費者物価は、上昇している。

   ・消費者物価上昇率は、一昨年11月以降おおむね2%台で推移している。ただし、12月の東京都区部(中旬速報)では、生鮮野菜価格の

    上昇が加速している。POSデータ(顧客と金銭のやりとりをした時点での販売記録データ)では、昨年秋以降、生鮮食品以外の食料品

    の価格も再び上昇した。

   ・2010年代以降、猛暑日の急増による生育不良等を背景に、生鮮野菜の価格上昇率は他の財・サービスを上回る傾向にある。

    円安の進行もあって肥料(ほぼ全量輸入)が高騰するなど、資材価格の上昇も農業生産者のコスト増要因となっている。

   ・食料品等身近な物価動向に反応しやすいとされる家計の予想物価上昇率は、2022年以降、1年先、5年先ともに上昇した。

   ・賃金と物価の好循環の下、2%程度の安定的な物価上昇と、物価上昇を上回る賃上げの定着が重要。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設はおおむね横ばいとなっている。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、8+0.5%9+3.0%10月▲2.7%11月▲0.5%

・持家着工数は前月比で、8+6.6%9月▲4.1%10+1.8%11+2.6%

・貸家着工数は前月比で、8月▲7.1%9+8.0%10月▲10.8%11+0.4%

・分譲着工数は前月比で、8+3.9%9+7.7%10+2.5%11月▲2.5%

   公共投資は、底堅く推移している。

・請負金額は前月比で、7+2.1%(出来高+0.7%)、8月▲11.4%(出来高▲1.1%)、9+6.4%(出来高▲0.7%)、

 10月▲5.7%(出来高+0.6%)、11+13.1%(出来高▲0.7%)、12月▲9.5%             

 

雇用・賃金の動向

 

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

フルタイムとパートタイムを平均した名目賃金は、所定内給与の伸びが着実に高まる中、24年5月以降、7か月連続で2%以上

 の伸びとなった。これは1992年以来である。実質賃金でみると、フルタイム労働者の現金給与総額は、6月以降プラス傾向が

 継続している。

 ボーナスを除く定期給与は前年比ゼロ近傍が継続。11月は消費者物価上昇率が高まったため、若干のマイナスとなった。

 パートの実質時給は前年比2%程度が継続している。

・フルタイム労働者の賃金を年齢別に見ると、23年の賃金上昇は若年層が中心だったが、24年は中年層にも広がっている。

・現時点で、25年度に所定内給与の引上げを予定する中小企業は全体の半数程度となった。うち約半数が3%以上の賃上げを予定

 している。価格転嫁の更なる推進や、生産性向上のための省力化・デジタル化投資等の促進が引き続き重要となる。

・我が国の就業者数約6,800万人のうち、15~24歳の就業者は約570万人(8.4%)。若年人口が減少する一方、通学のかたわらに

 働く人が増加傾向となっている。特に宿泊・飲食業の非正規雇用者は、学生を中心に若年層の占める比率が高い。

・夫の収入が高い女性の有業率は低い。特に子どものいる子育て世代(39歳以下)ではその傾向が強い。なお、6歳未満の子ども

 のいる有配偶女性の約7割は就労している。

・民間職業紹介における求人は、正社員では緩やかな増加傾向が続くが、パート・アルバイトでは足下、緩やかな減少傾向に

 ある。

 一方、すき間時間を活用するスポットワークは引き続き利用者が増加し、約2,800万人に上る。労働市場のDXが進行している。

・コロナ禍を経て若年層の意識に変化の兆しがみられ、2025年卒見込みの大学生のUターン希望割合は、コロナ禍前の2020年卒と

 比べ、全地域で増加傾向。特に、東海、九州・沖縄、東北、北陸では約半分がUターンを希望している。地元から転出した者の

 中で、「やりがいがあり、自分らしい仕事があれば地元に残りたかった」という者も多く、雇用の機会と質が重要である。

・新卒を含む20代前半では、賃金の高い地域ほど転入超過率が高い傾向にある。特に、女性は男性よりも、地域間の賃金差が転入

 超過率に与える影響が大きい。

・有効求人倍率は、81.2391.24101.25111.25(正社員は1.02)となった。

・完全失業率は、72.782.592.4102.5112.5となった。

 

投資・収益・業況

○ 我が国企業は、1998年度以降、投資が貯蓄を下回り、黒字が四半世紀にわたり継続している。企業の保有する現預金のGDP比

  は、コロナ禍を経て6割まで上昇し、際立って高い水準にある。

○ 企業収益は、総じて改善しているが、そのテンポは緩やかになっている。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

○ 業況判断は、改善している。

  倒産件数は、おおむね横ばいとなっている。

倒産件数は、コロナ禍ではゼロゼロ融資等により年6,000件に抑制された。経済活動の正常化や資金繰り支援の縮小の中で

増加に転じ、2024年は11年ぶりに年間1万件を超えた。一方、デフレに陥る前の1980年代前半は負債金額の大きい倒産も

含め年間1.8万件を超えていた。直近では、従業員数が4人以下の小規模な企業の倒産が多く、業種別には飲食を含む

サービスや卸・小売が中心。また、足下の動向をみると、ゼロゼロ融資返済開始の最後のピーク(24年春)を経て、増勢が

鈍化し、横ばいとなった。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20243+116+139+1312+1420253+13

  「大企業・非製造業」は、20243+346+339+3412+3320253+28

  「中小企業・製造業」は、20243月▲16月▲19+012+120253+0

  「中小企業・非製造業」は、20243+136+129+1412+1620253+8

 

生産

 生産は、横ばいとなっている。

・鉱工業生産指数は前月比で、8月▲3.3%9+1.6%10+2.8%11月▲2.2%12月(予測)+2.1%1月(予測)+1.3%

・はん用・生産用・業務用機械は前月比、8月▲4.6%9月▲1.7%10+21.6%11月▲9.1%

・電子部品・デバイスは前月比で、8+1.9%9+0.5%10月▲8.6%11月▲2.2%

   ・輸送機械は前月比で、8月▲8.1%9+5.8%10+3.1%11月▲3.2%

 

外需

○ 輸出は、おおむね横ばいとなっている。輸入は、このところ持ち直しの動きがみられる。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

米国は、我が国の最大の投資相手国である。米国の対内直接投資残高の中でも、日本の投資は増加し、2019年以降5年連続

 首位となっている。米国現地での雇用者数も、全産業では英国に次いで2位、製造業では1位と雇用の創出に寄与している。

・日本のサービス貿易のうち、輸出は特許権使用料やインバウンドが中心であるのに対し、輸入はデジタル関連等のシェアが

 大きい。インターネット広告等の海外への支払はコロナ禍を経て急増した。規模は小さいものの、コンテンツのライセンス料

 やオンラインのゲームの売上等の輸出は着実に増加した。強みのある分野での稼ぐ力の向上が重要となる。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2か月連続で上昇した。

・現状・季節調整値DIは前月差で、9月▲1.210月▲0.311+1.912+0.5

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月ぶりに下降した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、9月▲0.610月▲1.411+1.112月▲0.6

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。

先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の停滞の

継続や物価下落の継続、今後の通商関係の動向による影響等に留意する必要がある。

・中国では、不動産市場の停滞が継続する中、消費マインドはコロナ禍前を下回る水準で推移している。 輸出は緩やかに増加

 しているが、今後の通商関係の動向には留意が必要である。

・ 内需が伸び悩む中、財物価や住宅賃貸料が低下。2412月の中央経済工作会議で示された内需の全面的拡大の方針に基づき、

 政府は2025年の消費・投資支援策の拡充を表明した。

・住宅価格の下落など不動産市場の停滞が継続している。

・中国の20241012月期の実質GDP成長率は+5.4%、24年通年は目標としていた+5%の成長となったが、消費の寄与は前年

 から半減した。

・消費はおおむね横ばいとなっている。

・生産は、持ち直している。

・財輸出は緩やかに増加している。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。

○ 韓国では、景気は持ち直している。

○ インドでは、景気は拡大している。

○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ タイでは、景気は弱含んでいる。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、高い金利水準の継続に伴う

  影響による下振れリスク、政策動向による影響に留意する必要がある。

・物価の安定と雇用の最大化を使命とするFRBは、9月、11月、12 と3回の利下げを実施している。

財・サービスともに輸出は増加傾向にあり、特に、デジタル関連サービスがけん引しサービス輸出の比率は上昇傾向と

 なっている。

・米国では、個人消費を中心に景気は拡大している。

20247-9月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+3.1%

○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。

12月の失業率は4.1%となった。

○ 設備投資は緩やかに増加している。

○ 消費は増加、自動車販売台数は持ち直している。

○ 生産はおおむね横ばいとなっている。

○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格はゆるやかに上昇している。

○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなった。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態に

  ある。イギリスでは、持ち直している。

247-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+1.6% (イギリスは+0.1%、ドイツは+0.4%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は持ち直しの動きがみられる。イギリスは持ち直している。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに、おおむね横ばいとなっている。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.7%12月)、イギリス+3.2%12月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはこのところ持ち直しているが、このところ一服化案がみられる。イギリスのサービス

  輸出は緩やかに増加しているが、このところ一服感がみられる。

○ 生産は、ユーロ圏は下げ止まりつつある。イギリスはこのところ弱含んでいる。