月例経済報告

 

月例経済報告(R7.2.19)

基調判断

〈現状〉

・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果

 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、欧米に

 おける高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞の継続

 に伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しする

 リスクとなっている。

 また、物価上昇、アメリカの政策動向、中東地域をめぐる情勢、

 金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。

 先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場

 の停滞の継続に伴う影響による下振れリスク、通商政策などアメリカの政策動向による影響に留意する必要がある。また、中東

 地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。

 

GDP等の動向

202410-12月期(1次速報)の実質国内総生産は、前期比+0.7%(年率+2.8%)となった。

2024年の名目GDPは、暦年でみて初めて600兆円を超えた。

一方、実質GDPは、令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産・出荷停止事案等の影響により、20241-3月期が

マイナス成長だったものの、設備投資を中心とする内需の増加により、2024暦年としては、+0.1%4年連続のプラスと

なった。

202410-12月期については、実質成長率は前期比0.7%と、3四半期連続のプラスとなった。個人消費が3四半期連続で増加、

 設備投資が2四半期ぶりに増加したほか、外需も増加に寄与した

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、持ち直しの動きがみられる。

形態別に個人消費の動向を見ると、2410-12月期は、防災関連の備蓄需要の剥落により飲料等の非耐久財が減少した

 が、耐久財やサービスが増加に寄与し、前期比+0.1%と小幅増となった。家電販売はPCや白物家電等を中心に持ち直しの

 動きがみられる。

・一方、生鮮食品価格を中心とした物価上昇もあり、多くの世帯で予想物価上昇率が高まり、消費者マインドを下押ししている。

2022年以降、家計が今後の支出を考えるうえでの最大の要素は、「収入の増減」から「今後の物価の動向」へと変化した。

・家計の消費に占める食費の割合であるエンゲル係数は、食費の割合が高い高齢者世帯の増加等の中、2010年代以降緩やか

 な上昇傾向で推移したことに加え、近年、食料品の価格上昇率の高まりにより、2024年には外食を含むベースで28.3%となった。

・国際比較可能なGDP統計から、外食を除く食費が個人消費に占めるシェアを見ると、日本はイタリア・フランスと同様の20%

 前後と、相対的には高い水準となった。

・相対的に収入の低い世帯や高齢世帯は、消費全体に占める食費のシェアが高く、食料品価格の上昇の影響を受けやすい点に

 十分注意が必要である。

実質総消費動向指数は、前期比で、9+0.2%10月▲0.1%110.0%120.0%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、9+0.2%10月▲0.7%11+0.2%12月▲0.2%1月▲1.0%。 

  ・12月の実質総雇用者所得は、前期比で+1.6%となった。

 

物価

○ 消費者物価上昇率(CPI総合)は、一昨年11月以降おおむね2%台で推移してきたが、12月は生鮮野菜価格の上昇が加速し3.6%

   となった。1月の東京都区部(中旬速報)では生鮮野菜価格が更に上昇し、物価上昇率を押上げた。POSデータ(顧客と金銭の

   やりとりをした時点での販売記録データ)では、昨年秋以降、生鮮食品以外の食料品の価格も再び上昇を始め、足下で上昇幅を

   拡大させている。

○ 価格調査であるCPIと、実際に家計が購入した財の価格である家計調査の購入単価を比較すると、生鮮野菜では同程度の伸び

   の一方、米のほか、ワイン等では購入単価の伸びが低い。より安価な製品・購入場所にシフトしている可能性がある。

○ CPIの約5割を占めるサービス物価は、公共サービスを除くと、人件費の転嫁等もあって、前年比2%前後で推移している。

○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。消費者物価は、上昇している。

 

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設はおおむね横ばいとなっている。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、9+3.0%10月▲2.7%11月▲0.5%12+1.6%

・持家着工数は前月比で、9月▲4.1%10+1.8%11+2.6%12月▲4.8%

・貸家着工数は前月比で、9+8.0%10月▲10.8%11+0.4%12+7.3%

・分譲着工数は前月比で、9+7.7%10+2.5%11月▲2.5%12月▲0.7%

   公共投資は、底堅く推移している。

・請負金額は前月比で、8月▲11.4%(出来高▲1.1%)、9+6.4%(出来高▲0.7%)、10月▲3.5%(出来高+0.6%)、11+9.0%

(出来高▲0.7%)、12月▲6.1%(出来高▲0.8%)、1+4.9%             

 

雇用・賃金の動向

○ 2024年の名目賃金は、前年比2.9%1991年以来33年ぶりの伸びとなった。245月以降8か月連続で2%以上の伸びが続く。

○ 規模別にみると、相対的に規模の小さい事業所は、所定内給与の伸びはやや低い一方、冬のボーナスの伸びは高い。

○ 就業形態別の実質賃金は、パート時給、フルタイム労働者の現金給与総額ともに、2024年は3年ぶりに増加した。フルタイムの

  定期給与は、ゼロ近傍まで回復も、2412月にかけて物価上昇率の高まりによりマイナス幅が拡大した。2%程度の安定的な物価

  上昇と、これを持続的に上回る賃金上昇の実現が極めて重要となる。

○ 労働参加の進展等により、就業希望者数は長期的に減少した。企業は労働力の確保のため、賃金の引上げがより重要となる。

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

・有効求人倍率は、81.2391.24101.25111.25121.25(正社員は1.03)となった。

・完全失業率は、82.592.4102.5112.5122.4となった。

 

投資・収益・業況

○上場企業の決算では、202410-12月期の経常利益は製造業・非製造業ともに前年比プラスと、総じて改善が続いている。

○ 企業収益は、総じて改善しているが、そのテンポは緩やかになっている。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

・ 設備投資は機械投資やソフトウェア投資を中心に持ち直しの動きが続く。機械投資(資本財総供給)は、先端半導体工場へ

 の半導体製造装置の搬入等により生産用機械を主因に、足下で増加している。

○ 業況判断は、改善している。

 ・新たなビッグデータである法人番号を用いて起業数(スタートアップ)をみると、政策的な後押しもあって、コロナ禍前の年11万件

   程度から、コロナ禍後には年13万件程度に約2割増加した。地域別にみると関東が半数弱を占める一方、増加率は、関西、東海、

   北陸・甲信越で相対的に高く、地域的な広がりがみられる。

・倒産件数は、おおむね横ばいとなっている。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20243+116+139+1312+1420253+13

  「大企業・非製造業」は、20243+346+339+3412+3320253+28

  「中小企業・製造業」は、20243月▲16月▲19+012+120253+0

  「中小企業・非製造業」は、20243+136+129+1412+1620253+8

 

生産

 生産は、横ばいとなっている。

・鉱工業生産指数は前月比で、9+1.6%10+2.8%11月▲2.2%12月▲0.2%1月(予測)+1.0%2月(予測)+1.2%

・はん用・生産用・業務用機械は前月比、9月▲1.7%10+21.6%11月▲9.1%12+2.8%

・電子部品・デバイスは前月比で、9+0.5%10月▲8.6%11月▲2.2%12+2.0%

   ・輸送機械は前月比で、9+5.8%10+3.1%11月▲3.2%12+0.3%

 

外需

○ 輸出は、このところ持ち直しの動きがみられる。輸入は、おおむね横ばいとなっている。

輸出は、過半を占めるアジア向けが半導体製造装置や工作機械を中心に増加するなど、このところ持ち直しの動きがみられる。

・我が国の対米財輸出21.3兆円のうち36%が自動車を含む輸送用機器である。輸送用機械製造業は我が国GDPの3%(製造業の約14%

 を占めるほか、就業者数で見ると、直接の製造工程(自動車部分品を含む)や資材(鉄鋼、ゴム、ガラス、製造機械等)に関わる

 142万人を中心に、裾野が広い産業であることに留意が必要である。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、3か月ぶりに下降した。

・現状・季節調整値DIは前月差で、10月▲0.311+1.912+0.41月▲0.4

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、10月▲1.411+1.112月▲0.61月▲1.4

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。

先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の停滞の

継続や物価下落の継続、通商問題の動向による影響等に留意する必要がある。

・内需が伸び悩む中、物価はゼロ近傍ないし下落傾向で推移している。

 背景には不動産市場の停滞の継続。2022年以降、住宅着工・販売面積は大きく減少し、住宅在庫が累積した。

・中国の人口動態は転換局面にあり、従属人口指数(生産年齢人口に対する従属人口の比率)は2011年以降上昇し、「人口

 オーナス」期に入っている。総人口も2022年以降減少し、合計特殊出生率は1近傍まで低下した。

・中国の20241012月期の実質GDP成長率は+5.4%となっている。

・生産は、持ち直している。

・財輸出は緩やかに増加している。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。

○ 韓国では、景気は持ち直している。

○ インドでは、景気は拡大している。

○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ タイでは、景気は弱含んでいる。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、高い金利水準の継続に伴う

  影響による下振れリスク、通商政策など政策動向による影響に留意する必要がある。

・主要国と同程度の経済規模をもつ人口上位4州が経済成長をけん引している。

・米国では、個人消費を中心に景気は拡大している。

202410-12月期のGDP成長率(1次推計値)は、前期比年率+2.3%

○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。

1月の失業率は4.0%となった。

・移民政策厳格化の影響は、外国生まれの人の多い建設業や農業等を中心に表れる可能性がある。

○ 設備投資はこのところ横ばいとなっている。

○ 財輸出はこのところ弱い動きとなっている。

 ・米国の財の貿易収支をみると、対オーストラリア等は貿易黒字、対中国、EU等は貿易赤字であり、財の貿易赤字は拡大

  傾向となっている。他方、サービス収支は、デジタル関連サービスがけん引し、黒字が拡大傾向。

 

トランプ大統領が署名した通商関係の大統領令について

     「米国第一の貿易政策」(1/20署名)

・ 長期にわたる大きな財貿易赤字の理由及びそれによる経済・安全保障上のリスク等について4月1日までに調査し大統領に報告すること を指示。

 ② 中国・カナダ・メキシコに対する関税措置(2/1署名)

・ 不法移民やフェンタニルなどの麻薬がもたらす脅威を、国際緊急経済権限法(IEEPA)における「国家の緊急事 態」と認定し、大統領権限を用いて

 関税を発動。

・ 危機が緩和されるまでの間、中国からの輸入品に10%、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す(カナダから輸入されるエネルギー

 資源は10%)。

 →対中国関税は24日から発動、対カナダ・対メキシコ関税は34日まで停止。

 ③ 鉄鋼・アルミニウムの輸入に対する関税措置(2/10署名)

1962年米国通商拡大法第232条等に基づき、312日以降、鉄鋼・アルミニウムの輸入に一律で25%の追加関税を課す。 課税を免除する既存の

 例外措置は全て失効。

 ④ 相互関税に関する調査・検討指示(2/13署名)

・ 全ての貿易相手国を対象に、米国からの輸入品に課している関税等と同様の関税を米国への輸入品にも課すという相互 関税の導入計画の策定に向け、

  関連する調査及び対応策の検討を指示。

・ 米国の全ての貿易相手国との非相互的な通商関係を調査する。その対象には、米国製品に課される関税、付加価値税 (VAT)を含む不公正・差別的・

  域外適用的な課税、補助金・米国企業に対する規制要件を含む非関税障壁・措置や 不公正・有害な法令・政策・慣行から生ずるコスト、為替レートを

  市場価値からかい離させる政策・慣行、賃金抑制、 その他の重商主義的政策、市場アクセスを不公正に制限する慣行、公正な競争を阻害する構造的

  な障害が含まれる。

○ 消費は増加、自動車販売台数は持ち直している。

○ 生産はおおむね横ばいとなっている。

○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格はゆるやかに上昇している。

○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。

  ・物価上昇率はおおむね横ばいで推移しているが、足下で家計の予想物価上昇率が上昇している。利下げ局面にあるが、

  FRBの政策金利の長期見通しは徐々に上昇していることに留意が必要である。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態にある。

  イギリスでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。

2410-12月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+0.2% (イギリスは+0.4%、ドイツは▲0.8%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は持ち直しの動きがみられる。イギリスは持ち直しに足踏みがみられる。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに、おおむね横ばいとなっている。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.7%1月)、イギリス+3.2%12月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加している。

○ 生産は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスはこのところ弱含んでいる。