月例経済報告(R7.3.19) 基調判断 〈現状〉 ・景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している。 〈先行き〉 ・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、ただし、 物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に 及ぼす影響や、通商政策などアメリカの政策動向による影響などが、 我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、金融資本市場 の変動等の影響に十分注意する必要がある。
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○ 世界の景気は、一部の地域において足踏みがみられるものの、持ち直している。
先行きについては、持ち直しが緩やかになる可能性がある。また、通商政策などアメリカの政策動向による影響の広がり等による
下振れリスクや金融資本市場の変動の影響等に留意する必要がある。
GDP等の動向
○ 2024年10-12月期(2次速報)の実質国内総生産は、前期比+0.6%(年率+2.2%)となった。
個人消費の動向
○ 個人消費は、一部に足踏みが残るものの、持ち直しの動きがみられる。
・個人消費の動向を見ると、24年10-12月期は、耐久財が増加に寄与した一方、防災関連の備蓄需要の剥落のほか、物価上昇
の影響もあり、食料品等の非耐久財やサービスが減少に寄与し、前期比+0.0%となった。
・耐久財は、新車販売が持ち直すとともに、家電は携帯電話やパソコンの新製品効果・買替え需要等により持ち直しの動きがみら
れる。一方、食料品など身近な品目の価格上昇が続く中、家計の予想物価上昇率の高まりを通じて、消費者マインドは下押し
された。
・生活設計を立てる際に「今以上の収入」を前提とする若年層の割合は、コロナ禍前に戻っていない。個人消費の力強い回復に
向けては、家計において、賃金が継続的に上昇するという見通しを持てるような状況が実現することが重要である。
・2023年初以降、ドラッグストアでの食料品売上の伸びは、スーパー等の他業態を大きく上回って推移している。食料品価格の上昇
が続く中、消費者がより安い業態店舗での購入にシフトしていることが背景の一つとなっている。例えば、菓子、レトルトカレー、
カップ麺、飲料といった品目では、ドラッグストアでの平均販売価格はスーパーより低い傾向がみられる。
・国内旅行は、旅行者数はコロナ禍前に戻ったものの、宿泊費を中心に単価が上昇しており、消費意欲の下押しを通じて力強さ
を欠く。海外旅行も、円安等により単価が上昇する中、旅行者数がコロナ禍前の7割未満にとどまるとともに、アジアへのシフトや
旅行期間短縮の動きがみられる。
・実質総消費動向指数は、前期比で、10月▲0.1%、11月0.0%、12月0.0%、1月▲0.1%。
・消費者態度指数(DI)は前月差で、10月▲0.7%、11月+0.2%、12月▲0.2%、1月▲1.0%、2月▲0.2%。
・1月の実質総雇用者所得は、前期比で▲1.9%となった。
物価
○ 消費者物価上昇率は、一昨年11月以降おおむね2%台で推移してきたが、昨年秋以降、生鮮野菜価格の上昇加速もあって、
25年1月は+4.0%。一方、生鮮食品以外の食料品価格をPOSデータ(顧客と金銭のやりとりをした時点での販売記録データ)で
みると、昨年秋以降、再び上昇率が高まり、足下5%台半ばとなった。
○ 食料品の輸入価格(契約通貨ベース)は、ロシアのウクライナ侵略のほか、異常気象頻発の影響もあって22年以降高水準が続き、
24年以降再び上昇している。輸入依存度の高い品目のうち、足下ではオレンジジュース、カカオ・コーヒー豆等が押上げに寄与
した。なお、輸入小麦の政府売渡価格の来月の引下げは、今後、食料品価格の上昇抑制に寄与するものと期待される。
○ 国内企業物価は、このところ緩やかに上昇している。消費者物価は、上昇している。
住宅投資・公共投資
○ 住宅建設はおおむね横ばいとなっている。
・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、10月▲2.7%、11月▲0.7%、12月+1.3%、1月▲1.2%。
・持家着工数は前月比で、10月+1.8%、11月+0.7%、12月▲2.2%、1月▲9.0%。
・貸家着工数は前月比で、10月▲10.8%、11月+0.9%、12月+4.3%、1月+2.4%。
・分譲着工数は前月比で、10月+2.5%、11月▲1.9%、12月▲0.1%、1月+2.2%。
○ 公共投資は、底堅く推移している。
・請負金額は前月比で、9月+6.4%(出来高▲0.7%)、10月▲3.5%(出来高+0.6%)、11月+9.0%(出来高▲0.7%)、12月▲6.1%
(出来高▲0.8%)、1月+4.9%、2月▲9.3%。
雇用・賃金の動向
○ 25年春闘(第1回集計)の賃上げ率は、定昇込みで5.46%、ベアで3.84%と、33年ぶりの高さの賃上げ率であった24年を上回る。
ベアは中小組合でも3%以上の伸びとなり、組合計のベースアップ額は昨年に引き続き月1万円を超える水準になった。
○ 今年賃上げを行う企業の3分の2弱は、中小企業を含め、一定以上の確度で、今後5年間毎年賃上げが可能としている。
力強い賃上げが定着するよう、価格転嫁の更なる推進、生産性向上のための省力化・デジタル化投資の促進、経営基盤の強化
に資する事業承継・M&Aの支援が重要となる。
○ 定期給与(ボーナスを除く名目賃金)の伸びは着実に高まり、2025年1月は+3.2%と、1992年4月以来約33年ぶりの高さになった。
・就業形態別の実質賃金の伸びは、パート時給でプラスが継続。フルタイム労働者の定期給与は、24年10月にプラスに回復した
後、物価上昇率の高まりによりマイナスになった。2%程度の安定的な物価上昇と、これを持続的に上回る賃金上昇の実現が
重要である。
・フルタイム労働者の賃金(所定内給与)水準と上昇率を見ると、相対的に賃金水準が低かった宿泊・飲食等のサービスや運輸業
では、この3年間合計で10%前後、あるいはそれ以上の高い賃上げ率が実現した。
・フルタイム労働者の人手不足感と賃金上昇率の関係は、デフレを含む期間には希薄であったが、2020年以降は、人手不足感の
高まりに対して、賃金上昇率が高まりやすい関係になった。
○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。
・有効求人倍率は、9月1.24、10月1.25、11月1.25、12月1.25、1月1.26(正社員は1.03)となった。
・完全失業率は、9月2.4、10月2.5、11月2.5、12月2.5、1月2.5となった。
投資・収益・業況
○ 企業収益は、総じて改善しているが、そのテンポは緩やかになっている。
・2024年10-12月期の経常利益は大中堅企業、中小企業を含めて増益となり、改善傾向が続く。輸出企業の採算為替レートは25年
1月時点で1ドル130円であり、実勢レートは引き続きこれよりも円安で推移している。
・企業の利益配分スタンスをみると、大企業では内部留保の優先順位が低下する一方、設備投資や株主への還元をより重視して
いる。中小企業では、従業員への還元により積極的になっている。規模を問わず、有利子負債削減の優先度は大きく低下した。
・企業による我が国経済の中期的な期待成長率は、物価・賃金が動き出した中、名目で過去20年で初めて3%近くまで上昇した。
一方、 実質では1%台前半にとどまり、引き続き、我が国の潜在成長率の引上げに向けた取組の推進が重要な課題となっている
○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
・ ・設備投資は持ち直しの動きが続く。10-12月期は先端半導体工場への半導体製造装置搬入もあり、機械投資が牽引した。
○ 業況判断は、改善している。
・倒産件数は、おおむね横ばいとなっている。
・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、
「大企業・製造業」は、2024年3月+11、6月+13、9月+13、12月+14。2025年3月+13。
「大企業・非製造業」は、2024年3月+34、6月+33、9月+34、12月+33。2025年3月+28。
「中小企業・製造業」は、2024年3月▲1、6月▲1、9月+0、12月+1。2025年3月+0。
「中小企業・非製造業」は、2024年3月+13、6月+12、9月+14、12月+16。2025年3月+8。
○ 生産は、横ばいとなっている。
・鉱工業生産指数は前月比で、10月+2.8%、11月▲2.2%、12月▲0.2%、1月▲1.1%、2月(予測)+5.0%、3月(予測)▲2.0%。
・はん用・生産用・業務用機械は前月比、10月+21.6%、11月▲9.1%、12月+2.8%、1月▲12.3%。
・電子部品・デバイスは前月比で、10月▲8.6%、11月▲2.2%、12月+2.0%、1月▲5.4%。
・輸送機械は前月比で、10月+3.1%、11月▲3.2%、12月+0.3%、1月+9.1%。
外需
○ 輸出は、このところ持ち直しの動きがみられる。輸入は、おおむね横ばいとなっている。
・我が国の輸出は、直近の統計では、過半を占めるアジア向けが増加するなど、米国の通商政策による影響はみられず、持ち直し
の動きとなっている。大企業の景況感を見ると、全体として、非製造業を中心に改善が続くものの、製造業は通商政策への懸念
もあり、この3か月間で景況感が下方改定され、足下でやや悪化している点に留意が必要である。
・我が国の財輸出に占める中間財(住宅設備や部材・石油等、生産活動において他の財の完成までの中間で使用される財)の割合
は、対中国、メキシコで6割、対カナダで半分弱である。品目別にみると、対中国では半導体等の電子機器(IC等)が2割強を、
対メキシコ、カナダでは輸送用機械(自動車部品)や鉄鋼等が3~4割程度を占める。我が国から中国、メキシコ、カナダへの
中間財輸出は、米国とこれら諸国との貿易摩擦の影響を受けることに留意が必要である。
○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。
景気ウォッチャー調査
○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2か月連続で下降した。
・現状・季節調整値DIは前月差で、11月+1.9、12月+0.4、1月▲0.4、2月▲3.0。
○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、3か月連続で下降した。
・先行き・季節調整値DIは前月差で、11月+1.1、12月▲0.6、1月▲1.4、2月▲1.4。
アジア経済の動向
○ 中国では、政策効果により供給の増加がみられるものの、景気は足踏み状態となっている。
先行きについては、各種政策効果が次第に発現し、徐々に足踏み状態を脱することが期待される。ただし、不動産市場の停滞の
継続や物価下落の継続、通商問題の動向による影響等に留意する必要がある。
・内需が伸び悩む中、物価はゼロ近傍ないし下落傾向で推移している。
・財政赤字対GDP比は拡大傾向にある一方、通商問題等外部環境が厳しさを増す中で、政府は内需の全面的拡大を目指し、
財政赤字対GDP比をより拡大することを表明した。
全国人民代表大会(3/5~11) ~2025年政府活動報告(主な目標・政策方針)~
○現状認識
• 国内経済は有効需要が不足、特に消費が落ち込み
○2025年の経済政策の主要目標
①実質GDP成長率:5%程度(目標維持)
②CPI上昇率:2%程度(24年から▲1%pt)
③財政赤字対GDP比:4%程度(+1%pt)
○2025年の経済政策の方針
• 「積極的な財政政策」 →「より一層積極的な財政政策」
財政赤字対GDP比の拡大
超長期特別国債の発行増(+0.3兆元)
地方特別債の発行枠拡大(+0.5兆元)
•「穏健的な金融政策」 →「適度に緩和的な金融政策」
適時に預金準備率や金利の引下げを実施
○重点的取組
• 内需の全面的拡大 超長期特別国債を3,000億元計上(消費財買換え支援)
インバウンド消費の拡大 等
・中国の2024年10-12月期の実質GDP成長率は+5.4%となっている。
・生産は、持ち直している。
・消費はおおむね横ばいとなっている。
・財輸出は緩やかに増加している。
・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。
・新築住宅販売価格は下落している。
・消費者物価はおおむね横ばいとなっている。
・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。
○ 韓国では、景気は持ち直しに足踏みがみられる。
○ インドでは、景気は拡大している。
○ 台湾・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。
○ タイでは、景気は弱含んでいる。
アメリカ経済の動向
○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、マインド悪化に伴う影響から、その勢いが緩やかになる可能性が
ある。また、高い金利水準の継続に伴う影響による下振れリスク、通商政策など政策動向による影響に留意する必要がある。
・米国では個人消費を中心に景気は拡大してきたが、このところ、家計の予想物価上昇率が上昇しており、消費者マインド
は悪化した。
・2024年10-12月期のGDP成長率(2次推計値)は、前期比年率+2.3%。
○ 雇用者数は緩やかに増加し、失業率はおおむね横ばいとなっている。
・2月の失業率は4.1%となった。
○ 設備投資はこのところ横ばいとなっている。
○ 財輸出はこのところ弱い動きとなっている。
・2025年1月は財輸入が急増し貿易赤字は拡大(5図)。スイスからの金の輸入の増加等が背景にある。
○ 消費はゆるやかに増加、自動車販売台数は持ち直している。
○ 生産はおおむね横ばいとなっている。
○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格はゆるやかに上昇している。
○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。
ヨーロッパ経済の動向
○ ユーロ圏では、景気は一部に足踏みがみられるものの、持ち直しの動きがみられる。ドイツにおいては、景気は足踏み状態に
ある。イギリスでは、景気は持ち直しに足踏みがみられる。
・24年10-12月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で+0.9% (イギリスは+0.4%、ドイツは▲0.8%)。
・ドイツ経済は、景気は足踏み状態となっている。
実質賃金が2023年4-6月期以降プラスで推移する中、先行きの不透明感から消費者マインドが停滞し、家計消費は伸び悩んで
いる。輸出は、自動車を中心に中国向け輸出が減少する一方、これまでは米国向け輸出が緩やかに増加している。
2025年2月の連邦議会選挙結果及び安全保障環境の変化から、財政ルール見直しの動きがみられる。長期金利は上昇した。
○ 個人消費は、ユーロ圏は持ち直しの動きがみられる。イギリスは持ち直しに足踏みがみられる。
○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。
○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏は、おおむね横ばいとなっている。イギリスは、このところ上昇している。
・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+2.6%(2月)、イギリス+3.8%(1月)。
○ 財輸出は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。イギリスのサービス輸出は緩やかに増加している。
○ 生産は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。